第2話雪降る街で

千茶との交流が半年続き、彼女が名古屋に年末年始泊まりに来ることになった。

千茶は大阪に住んでいる。

半年も交流して、リモートトークすればお互いのある程度の顔、姿が分かるので名古屋駅の新幹線出入口で待ち合わせした。

時間になると、ドイツ軍の軍服の様な姿をした女性が近付いてきた。


「こんにちは」


僕は、戸惑いながらも、

「こ、こんにちは。ブリュヴェールさんですか?しかし、どうして、軍服着てるの?」

「え?これ?軍服じゃないよ。コートだよ」

「へ、へぇ。荷物持とうか?」

「大丈夫」

軽くジャブの応酬をしてから、地下鉄で自宅最寄駅に向かい、ウエルカムドリンクとして近所の定食屋でキリンラガーを飲む。


千茶は串味噌カツと味噌カツ定食を注文した。

僕は天婦羅盛り合わせで、ビールを飲んでいた。その頃は、僕は11月に仕事を退職していて、失業保険で生活していた。

だから、とても貧乏でろくな出迎えは出来なかった。

だが、芋焼酎とウイスキーだけはあった。

千茶はファミリーマートで有名な大学卒。僕は箱根駅伝でしか応援出来ない大学の中退者。

お互いに、偏差値に付いては負けたくないと思っている。千茶は良きライバルでもある。


自宅で、濃いウイスキーの水割りを作り、アメリカ横断ウルトラクイズの問題をYouTubeで流し、勝負した。

それをきっかけに、毎年、年末年始名古屋に来る時は、名古屋市横断ウルトラクイズと称して戦った。

大晦日。

まだ、近所にスーパーがない頃で年越しのオードブルを買いに、わざわざバスでスーパーまで行き千茶がオードブルを買ってくれた。

帰り、雪が降っていて余りの寒さに凍え、タクシーで帰宅した。


ビール、ウイスキー、芋焼酎とチャンポンして紅白を見て、ゆく年くる年を見てから初詣に出掛けた。

雪がうっすらと積もり、前途多難な年になっていた。前年に父親を亡くしたので、良い年が来るように願った。

ウルトラクイズのお陰で、2人して酔っ払い狭いベッドに半分ずつスペースを作り横になった。

睡眠時無呼吸症候群の僕のイビキにこの人はよく耐えられたもんだ。

うちの息子はイビキがうるさいと言うし、息が臭いからこっち向いて寝ないで!と、言うのだが、なんと言うか千茶は文句も言わず長い夜を過ごしてくれた。僕は歯槽膿漏なのだ。

この辺りから、千茶は僕に対して何かと助け船を出してくれるようになる。

しかし、よくあの超貧乏生活から這い上がったものだ。

就職活動は妻子の為であり、オードブルを買ってくれた千茶の為に何か恩返しがしたいと言う気持ちで真剣に取り組み、失業保険が切れる次の月から働くようになるが、未だに千茶への恩返しが出来ていない。

食事代は払える身分だが、それより何か無いものか?と考えている。

しかし、僕はその頃は真面目に働いていたが病魔が忍び足で近付いている事に気が付いていなかった。

千茶は1月の上旬、大阪に帰った。

その辺りから、僕は手が震えるようになっていて、白血球の数値が高く、ナトリウムも不足している血液検査の結果票を貰っていた。

そして、事件は起きる。

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