38 花穂の恋愛観
「じゃあ、日本の恋愛ものは邦画もドラマも観ないんだ?」
奏斗の問いに花穂は軽く数度頷き、
「シンデレラストーリーって多いじゃない? あれって男尊女卑の象徴だと思うのよ。可哀そうな女や貧乏な女が金持ちの男に見初められて……って。恋愛は平等よ?」
男女の賃金格差があること自体が男尊女卑。
そして男が女を見初めてというのも、まるで性奴隷のようだ。
男女平等の国の恋愛ものは互いに惹かれてというものが多いが、シンデレラストーリーは違う。何故女性が貧乏なのか? そこに疑念を感じないのも恐ろしい。
「中世のようなファンタジーものも嫌よね。政略結婚って結局、女性は子を産む道具としか思われていないということなのに。何が良いのかしらね?」
「じゃあ、逆はどうなの? 男性主体のハーレムものなんて花穂の嫌悪そのものだと思うけど。逆ハーレムのような」
「あなた、顔が良いだけで威張っているような異性好きになる? 逆ハーレムってのも女がちやほやされたいだけの物語でしょ? どれだけ周りに
いろんな男に囲まれるなんて恐怖でしかない。
電車で男に囲まれて恐怖を感じない女性はいるのだろうか? と思う。あれは物語だから良く見えるだけ。実際は徒党を組んで強姦でもされるのではないかとしか考えないだろう。
「だからメンクイとかみると、『バカな女ね』としか思わないわ。顔だけ良くても中身がなければ、ただのゴミと一緒よ」
「花穂がいつもお一人様で行動するのはそれが理由?」
花穂は群れるのが好きではなかった。
確かに同じ学年に一緒に行動できるような相手はいない。
「どうかしら。学生って意外と男の方が群れている印象だわ」
花穂は奏斗の胸にすり寄ると、腰に両腕を回す。
すると彼の手が髪から頬を伝い首筋を撫でる。目を閉じれば唇に柔らかい感触。何度もその唇を追い、そしてどちらからともなく離れた。
「奏斗のことは好きよ」
柔らかく笑う彼にぎゅっと抱き着く。奏斗の両腕が花穂の背中に回る。
──そう言えば、奏斗は昔から否定も肯定もしないわね。
わたしの意見に対して。
「奏斗は恋愛もの好きなの?」
「どうかな。結菜の書く小説は面白いけど」
「あの子、小説書くの?」
なかなか面白いよ、と彼。
「ラブコメってこと?」
ロマンチックなどではなく、面白いと表現するからには笑いが含まれるのだろうと思った。
「いや。ラブコメって言うよりもサスペンスかな」
サスペンスとはハラハラドキドキのことである。殺人事件ものに使われることが多いので、血が出るイメージを持ちやすいが。
恋愛ものでサスペンスというと昼ドラのような感じなのだろうか?
「不倫とかそういうものなの?」
不倫を面白いとは言わないだろうと思いながらも花穂は彼にそう質問してみる。
「いや、毎回彼氏が死ぬ」
恋人ではなく彼氏と言うのは毎回死ぬのは男限定なのだということは想像がつくが、結菜は何か男に恨みでもあるのだろうか。
「ミステリーと恋愛が合わさったようなものなのかしら?」
「うーん。それも何か違う気がする。大抵犯人は隣人だからすぐに捕まるし」
でも、と彼は続ける。
「最後まで誰とくっつくか分からないんだよね。そこが面白いところかな。何人殺されるかもランダムだし」
聞けば聞くほど謎の物語だ。
「ちょっと興味が湧いたわ」
「リンク先あるよ。読む?」
奏斗はそういうと花穂の背中から腕を解き、傍らに置いてあった上着に手を伸ばした。
「ん……? あれ?」
彼はポケットからスマホを取り出すと画面を見つめ、眉を寄せる。
「どうかしたの?」
「結菜からだ。『助けて』って」
「え?」
”何かあったみたいだ”と彼。
「実家の方にいるらしい。俺、行ってくる」
慌てて上着を羽織る奏斗のシャツを、思わず掴む花穂。
「わたしも行くわ。場所は分かるの?」
カウンターに置かれた籠から車のキーを取ると同じように上着を掴んで。
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