39 急な展開に

「そういや花穂ってメンクイじゃなかった?」

「え?」

 奏斗の言葉に驚いて助手席に視線を向ければ、前を見てと言われる花穂。

「わたしは奏斗が好きなだけ。顔が良けりゃ誰でもいいわけじゃないの」

「そっか」

 ふっと笑うと彼はスマホの画面に視線を落とす。

「えっと、結菜ちゃんから連絡は?」

「あったよ。実家近くの大きな公園に潜伏……潜伏? しているらしい」

 画面を見ながら答える彼。

「隠れているってこと?」

「そうらしいな。襲われたりしたわけじゃないようだが、追手でもいるのか?」

 

 結菜の実家付近へは車で一時間ほどで到着。

 確かに大学まで通うのは不便だろうなという印象を持った。

「公園はこの先のようだ。そこのパーキングに停めて歩いて行こう」

「ええ。了解よ」

 何かに追われているなら車で近づけば目立ってしまう。奏斗の案に花穂も賛成だった。

 公園利用者用の駐車場に車を停めると怪しまれないようにゆっくりと下車した二人。奏斗が手を差し出すので花穂はそれを無言で掴む。

「緊張してる?」

「少し」

 どこから誰に見られているのかわからない状況だ。緊張するのも無理ないだろう。むしろ彼が何故そんなに落ち着いているのか不思議だ。


「入口から向かって右。奥の方が林になっているみたい。そこに潜伏してるらしい」

「潜伏って……」

 なんだか物騒ねと思いながら、いちゃつくカップルのフリをし目的地に向かう。背後に気配はなかった。途中でジョギング中の高齢女性に冷やかされ、奏斗が眉を寄せる。

「普段、こんなことしないしね」

と励ますように彼に声をかけると、

「俺たちに足りないのは若さか?」

と問われる。

 確かに手を繋いで歩くことは多いが、外でイチャイチャするということが滅多になかった。


「どうかしらね? 日本人のイチャつき方はちょっと異常だと思うわ」

 日本人というのは、海外のように常にボディタッチやハグをするような環境にはない。その辺で友人や知り合い同士がハグし合うような環境にあれば目立つこともないだろうが、人々が触れ合わない環境でイチャイチャしていては異様な光景に見えるものだ。

「周りが見えていない感じよね」

「まあ、そうだな」

 手を繋ぐというのは見かけるが、腕を組むのは夜のお仕事のイメージが強い。

「それだけ触れ合わない文化なのね」

 近頃はどうであるかわからないが、古くは親子間でも触れ合う機会が少なかったように感じる。


「さて、この辺か?」

 奏斗が立ち止まるので、花穂も歩みを止めた。

「それは?」

「地図みたいだな」

 画面いっぱい緑だったのでわかり辛かったが、この辺の航空写真のようだ。

 奏斗のスマホの画面をのぞき込み、ピンのついている部分を確認する。確かにこの辺のように見えた。

「結菜? ……っと!」

 彼が名前を呼ぶと同時に、何かが飛び出してくる。

「ちょ、なんつうカッコしてるんだ。戦争でもする気なのか?」

 木の陰から飛び出してきた女の子はアーミースーツにヘルメットを着用している。

「潜伏用です」

「そ、そうか」

 スチャっと敬礼する結菜に困り顔の奏斗。


「林の中なら目立たないけれど、その格好は目立つわ。ひとまずうちに向かいましょ」

 花穂がヘルメットを受け取ると、奏斗が上着を脱いで彼女の肩にかける。

「いや、近くに宿を取ろう。状況が分からないのに移動するのは良くないと思う」

 こうして三人は近くのシティホテルに部屋を取ったのだが。


「見合い?!」

「そうなんです」

 チェックインを済ませ、ルームサービスを頼み落ち着いたところで話を聞くことにした二人は結菜の口から飛び出した言葉に驚いた。

「急に実家に帰るようにとお達しがあって、父の秘書が迎えに来てくれたのですが」

 帰るなり見合い話を持ち掛けられたというのである。

「それで、相手は自分で探すと言って飛び出してきたわけか」

 コクコクと頷く結菜。奏斗は顎に手をあて、何か考えているように見えた。

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