10話 そうは問屋が卸さない?!【Side:花穂】
37 スタート地点
「避けてた? わたしが?」
結菜と会って帰宅した奏斗に、花穂は一年会わなかった理由について尋ねられた。
冷蔵を開けながら、
「そんなわけないでしょ」
と返答すれば、カウンターに寄りかかっていた彼は眉を寄せる。
疑っているのだろうか。
「学部も学年も違うのよ? あの広い構内でそうそう会えるものじゃないわ。サークルが一緒とかならわかるけれど。それにわたしは学食も構内のカフェテラスも使わないから」
つまり行動範囲が合わないから遭遇しなかったということらしい。
「会いたくなかった?」
「あなた。意地悪な質問するのね」
時々子供のような彼が愛しい。
二つのグラスにアイスティーを注ぐと一つを彼に渡しながら。
「会いたかったわよ。会えるとも思っていたし」
グラスに口をつけ、じっと花穂を見つめていた彼は、
「そっか」
とホッとした表情をする。
「そんなにわたしのこと好き?」
「うん、好き」
素直な返事にドキリとしながらカウンターにグラスを置くと、
「終わったのよね?」
と彼に問う。
奏斗が同じようにカウンターにグラスを置くのを見届けてからその胸に額を寄せた。
「そうだな、愛美が納得したかどうかは分からないが。今は少なくとも恋人はいないよ」
優しく花穂の背中にあてられた手。
これでやっとスタートラインに立てるのだ。
「花穂、俺とつき合ってくれる?」
「ええ。喜んで」
ぎゅっと彼に抱き着くと、優しく抱きしめ返してくれた。
「一緒に暮らすのは少し時間空けた方がいいと思う」
「そうね。異論はないわ」
ずっと好きだった彼と今度こそちゃんとした恋人になれる。嬉しい反面、実感がわかない。
恋というものは難しいものだと思う。
恋をしたくてもできるものではないし、やめたいと思っても簡単にやめるのは難しい。
恋をしたからといって相手と両想いになれるとも限らない。
そう考えると好きという感情はとても貴重なものなのかもしれない。
「初デートどこにする?」
「初デート?」
花穂の言葉に聞き返す彼。デートなんて今までにたくさんしたじゃないかとでも言うように。しかし自分にとっては想いがかなって初めてするデート。それはとても特別に思えた。
「そうだな」
彼は何かを察したように、それ以上は追求しない。
花穂が離れるのを待って傍らのタブレットに手を伸ばすと、
「定番だけど、映画でも。恋愛……」
「アクションが良いわ」
奏斗の言葉を遮りタブレットを覗き込む花穂。彼がクスリと笑う。
「恋愛ものは好きじゃないの?」
彼に問われ、
「背中がむず痒くなるの。歯の浮くようなセリフとか多いでしょ?」
「まあね。恋愛なんてもんは妄想と自分に酔った世界だし」
人は恋愛ものを好む。それは現実に起こりえないロマンチックなものだったり、心からの愛だったりするかもしれない。
たまにノンフィクションものもあるだろうが、ほとんどが他人の理想や妄想、一般受けなものだろう。特に日本はその傾向が多い。
「とはいえ、海外もののアクションも何がどうなって突然ロマンス? というものも多いけれどね」
と花穂。
そうなのだ、日本人からすると何が起きて急にこの二人はイチャイチャしだしたのか謎なものも多い。
「海外の恋愛ドラマは近場でとっかえひっかえも多いしね」
と彼。
「仕事への考え方と恋愛への考え方って似ていると思うのよね」
そんなにたくさんの国について知っているわけではないが、欧米では転職するのは一般的というイメージがある。転職したら給料が上がるというのも欧米のイメージ。
では日本ではどうか?
日本は非正規雇用が多く、正社員になれるのは新卒か中途でも苦労するだろう。つまり正社員としての雇用は少ないためどうしても長期勤務というのが主体となるだろう。
新しい仕事につけば安い給料からやり直し。これが日本でのイメージ。
恋愛も同じ。欧米は合わなければ別れ、次の人というイメージが強く恋愛のハードルが低そうに感じる。それはドラマからのイメージであり、実際は違うかもしれない。
日本ではドラマ内でもとっかえひっかえということはほとんどない。それは放映回数というのも関係してくるのだろうが。
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