No matter how much I'm torn apart, my heart is with you.

9話 愛とは与え合うもの【Side:奏斗】

33 勇気のいる決断

「こんなことはもう、終わりにしよう」


 ずっと自分勝手だと思っていた。

 彼女を拒否することが。

 だから言いなりになって、それを贖罪だと信じてきたのだ。


「どうして?」

 理由を聞かれるのは想定内。愛美はじっと奏斗を見つめていた。

「したくないから」

 最初に言うべきだったと思う。言わずにずっと間違いを犯し続けた。だから責められても仕方ないし、謝ったところでなかったことにもならない。

「俺は愛美との性交を望んでいない」

「でも、拒否しなかったわよね?」

 我慢し続けていた。それは自己中な理由だろうか。

「受け入れることで償いになるのだと思ってた。ごめん」


 男だから性欲はあって当たり前。

 そう思われるのは偏見なのではないだろうか?

 女性から求められれば喜んで応える生き物だと思われるのは偏見なのではないか?

 大多数がそうだからと言って、皆がそうだとは限らない。

 仮に少数派だったとしても、したくない人は存在する。


「むしろ愛美なら理解してくれていると思っていた」

 それは理想の押し付けだろう。自分勝手も甚だしい。

「わたしは大川さんに奏斗を取られたくなかった。だから必死だったし、元カノに遊ばれていたんだと思ったから愛のある行為を教えてあげたかった」

 それがすれ違いの始まりだったのかと奏斗は納得する。

 そんなことはしなくていいと一言でも言えていたなら、ここまで拗れることはなかったはずだ。

「気持ちは嬉しいけど、俺はそんなこと望んでいない」

 誰も傷つけたくなかった。傷つかない方法があったなら教えて欲しいとさえ思う。


──どこで間違ってしまったんだろう……。


 奏斗は花穂を想う。

 彼女が好きだ、とても。

 花穂の傍は落ち着く。

 あの手が好きだ。

 彼女に触れられると幸せを感じる。


「愛美が悪いとは思わない。俺がちゃんと意思表示しなかったのが悪いんだ」

「誰が悪いかなんて、どうでもいいわ」

「俺は、愛美には綺麗なままでいて欲しかった。それなのに、自分の手で穢した」

 女性にも性欲はある。そんなことはわかっているつもりだ。

 これがただの理想の押し付けであっても、愛美にはそんな面を見せて欲しくなかった。

 花穂との関係がただの”遊び”だったんだとショックを受けていたからこそ、それを望んだ。だがその願いは叶わなかった。

「奏斗。性交で人は穢れたりなんてしないわ。それは都合良く女性を意のままにする魔法の言葉」

 もし本当に穢れるというのなら人は子を成す道なんて選ばず、早々に滅んでいるはずと彼女は言う。


 そんなのは男が女をモノ扱いしている代表的なものでしかない。

 そもそも性交とは”子を成す”ための行為であり、愛の証明でもなんでもない。男は本能により快楽を求める。種付けをしたいのが本能。

 性欲発散のために、愛だなんだと都合よく囁くだけ。

「そうでしょう?」

「そうだな……」

 不純異性交遊とは何か?

 そこに本質はある。


 不純な動機とは性欲の発散を示しているのだろう。

 不純とは”子が欲しいと望んでもいないのに”性欲発散のために女性と性交目的で交際をするということ。

 つまり不純な動機という意味と解釈すれば、性交自体が穢れではないと言える。結婚を前提におつきあいしているなら、不純な動機でつき合っているとはいいがたい。そこに本当に愛があるというならば。


「わたしは奏斗と交わっても穢れたりなんてしない」

 強い意志を持ち、しっかりとした意見を持った彼女が好きだった。

 そんな彼女に対し、誠意を失った自分が嫌だった。

 理解されない価値観の壁を感じる。

「だが、誠意のない関係には変わりない」

 その言葉には愛美も黙った。


 おつき合いしている相手がいるにも関わらず、他の女性と肉体関係にある。こんなこと自分が望んでいるとでも思っているのだろうか。

「自分勝手で申し訳ないと思うけれど、好きな人がいる。だからその人に対して誠意を示したい」

「それが奏斗の望みなの」

「そうだよ」

 

 自分は理解されないと同時に、彼女を理解してないと思うことが出来なかった。価値観が違うなら当然のことなのに。自分はきっと何も分かっていなかったのだろう。

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