34 結菜への告白

「奏斗くん、なんだか暗くないですか?」

 結菜にそう指摘され、

「俺がパリピ並みに明るかったことなんてある?」

と聞き返す奏斗。

「それは『俺は影のある男だベイベー』ってことですか?」

「なんだそりゃ」

「今書いている、恋愛ものの探偵さんのセリフです」

「また誰か死ぬの」

 結菜は恋愛小説を執筆しているが、その小説では毎回殺人事件が起きるらしい。


「なんでわかったんです」

「だって探偵さん出てくるんだろ?」

 奏斗の指摘に”やられたぜ”という表情をしているが、まるわかりだ。

「また彼氏が死ぬの? 彼女が死ぬこととかないの」

 それは素朴な疑問。

「世間は女性が殺されることには寛容にならないのですよ」

 どういうこっちゃと思いながら、

「男なら許されるわけ?」

と奏斗。

「男性は社会的に見ても、そんなに大事にはされていないので」

 男尊女卑社会とは言うが、男が社会的に優遇されているイコール大事にされているわけではないようだ。


「よく言われていたじゃないですか。”亭主元気で留守がいい”などと」

「いつの時代だよ!」

 つまり夫は財布と言うことなのだろう。

「俺はいつも疑問に思うのだが、何故いなくていい奴なんかと女性は結婚するんだ?」

 少なくとも奏斗の両親の仲が良い。それが恵まれているということは自覚している。

「異性婚しかできなかった時代のことですね。それは賃金格差と男女不公平によるものが大きいと思いますよ」

 女性も男性のように評価されて公平なら、一人で生きていくことを選択する人はたくさんいるだろうし、男に頼る必要もないということだ。


 そもそも自分を下に見ているような奴と結婚したい女性などいないだろう。

 そして自分よりも仕事ができないくせに威張っている無能とも結婚したいとは思わない。むしろ好きでない相手の方がただの財布という認識を持てるのだとも言える。


「男性を必要としない女性が多くいるのは当然ですよ。自分を虐げる生き物に好意的な人はいません。使えると思う人だけがその道を選ぶでしょう。良い時代になりましたね」

 同性婚が可能な現代では、男性の意識が変わったと思われる。

 もちろん恋人が欲しいと考える者の話ではあるが。

 以前のように男だからと威張っていても、女性は見向きもしない。

 相手にされない男とモテる男には大きな格差が出来上がっている。しかしながら努力しない者は報われることがないというのは良い傾向だ。


「その点、奏斗くんはなんの問題もないじゃないですか。放っておいても女が寄ってくるんですから」

 結菜にべしっと背中を叩かれ、複雑な表情を浮かべる奏斗。

「今の話の流れだと、まったく喜べないんだが?」

「細かいことを気にすると禿げます」

「またなの……」

 結菜から禿宣言をされるのは毎度のことである。

「禿チャンスは、そこかしこに転がっているのでご用心を!」

「それ、チャンス言わない」

 漫才のようなやり取りをしながら歩いていると、いつの間にか駐車場に着いていた。


 今日は結菜の従兄が経営している中古ショップに出向く約束をしている。

 初めて店を紹介されてからかれこれ半年は経っているのだなと思うと感慨深い。

「そういや結菜さ」

「何でしょう?」

 まだ敬語の呪いにかかっているのかと思いつつ、いい加減カミングアウトしなければならないと思っている話題をあげる。

「先日、一学年上の『楠花穂』と仲良くなったと言っていたが」

「ああ。奏斗くんの知り合いの。花穂さん美人だし優しいし、いい人ですよね」

「知り合い」

「花穂さんからそう伺ってますが」

 花穂は結菜にそう説明したのかと知り、いろんなことが腑に落ちた。


「そのことなんだが」

「うん?」

「元カノなんだ、花穂は」

「元カノ……え? はぁ?! え、元カノ?!」

 混乱する結菜をなんとか落ち着かせれば、

「なるほど、引きずる理由わかりますよ。花穂さん美人ですもんね!」

「いや、別に美人だからってわけじゃ……」

 なんと説明しようか思案すると同時に彼女が恋人らしくない理由に気づく奏斗であった。

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