28 花穂の推測
「こんなところに呼び出してどうしたの?」
彼女、花穂がこんなところと称するのはキャンパスがある駅の一つ隣の駅前にあるネットカフェ。
「こういうところ、来なそうだよね花穂は」
別々にブースを借り、今片方の部屋でこそこそと話をしている。
奏斗は椅子に座る花穂に覆いかぶさり気味になりながら、PCのキーボードに指先を走らせた。
「パソコンならうちにだってあるじゃない」
「わかってる」
不思議そうに奏斗を見上げる彼女。
キスしたい衝動に駆られるが、店員に見つかったらまずい。
「これ、見て欲しいんだけれど」
先ほど奏斗は車の中にてタブレットで裏掲示板なるものに何が書かれているのか確認した。
『学内1クリーンな男はやっぱり大崎だよね』
古川が教えてくれたことを思い出す。掲示板を見ながら何点かメッセージにて確認済みだ。
『誰が書き込んでいるのかはわからないね。このサイトにアクセスするには学生番号が必須だけれど、書き込むときは通常のSNSと同じ。住所や本名までは登録しない』
ニックネームとIDは固定式。一度決めると、よっぽどの事情がない限り変更は不可。一応連絡先としてメールアドレスを登録はするが、今の時代どこでも作れるし、いくらでも作れる。
『ただし、書き込み用のアカウントは一個しか作れない。スマホの機種変の時などは注意が必要かもしれないね』
それが大体のアカウントに関してのシステムのようだ。
「あなた人気者なのね」
画面を見ていた花穂がため息交じりにそう呟く。
「ストーキングでもされているの?」
「さあ……」
これでもかなり削除した方だと古川は言っていた。内容はどれも好意的ではあるが、行動が駄々洩れである。
「ここって、見る限りランキング上位の人たちの情報が書かれているのよね。『推しの応援』という建前で」
「そうみたいだな」
「それにしても、奏斗の場合は作為的な何かを感じるわ」
問題はそこにある。
K学園は金持ちばかりの集まるマンモス校。もちろん一般生徒も多くいる。
将来のことを考え、コネを作るために情報が流れているのなら不思議はない。出現場所で仲良くなるというのも一つの戦略だろう。
だが、奏斗は一般生徒に属する。仲良くなったところで何の利点もないはずなのだ。確かにK学の二大セレブとは友人ではあるが、それならば古川に近づいた方が確実だと思われる。
「目的は何だと思う?」
「探偵ごっこ? まあいいわ。わたしは『誰かに頼まれて』情報を書き込んでいるんじゃないかと」
「何故、そう思う?」
奏斗はじっとモニターを見つめながら花穂に問う。
「これよ」
花穂は書き込んでいる人たちのIDを指す。
特に変なところはないが、
「オカシイと思わない? 情報を書き込んでいる人はバラバラ」
奏斗には花穂がオカシイという理由がピンとこなかった。
「例えば、相手を恨んでいたとしても好きだったとしても」
”多少なりとも執着があるから、その人について何度か書き込んでしまうはず”だと言う。もちろん一度しか見かけなかったとしても、書き込みにコメントくらいはするだろうというのだ。
「ほら、返信欄を見てみてよ」
花穂は何人かの返信をクリックして開いて見せる。
「あちこちにコメントしているのは”ファン”だと思うわ。でも情報を寄せているだけの人たちはコメントに返信すらしていない」
「確かにそうだな」
奏斗は瞼を閉じた。
誰がなんの目的でこんなことをさせているのか。
突き止めたとして、この先に起こることは防げはしないだろう。
花穂を危険なことに巻き込みたくはない。
それなのに……
「奏斗。これについてはゆっくり議論するとして。ご飯食べに行きましょ?」
そんな風に微笑むから。
「どうしたの? そんな泣きだしそうな顔して」
不思議そうに首を傾げる彼女。
「危険に晒すかもしれないのに。ごめん、身勝手だけれど一緒にいたい」
奏斗はぎゅっと花穂を抱きしめたのだった。
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