27 新たな問題

「もー何?! 今日はどうしたの、白石」

「うん?」

 机に肩肘をつきスマホの画面を眺めていた奏斗は、古川こがわから声をかけられ顔をあげる。

「元気なさすぎ。若者は元気が取り柄でしょうよ」

「そんなこと言われてもな」

「古川、五月蠅いぞ」

 奏斗が眉を寄せ困った顔をしていると、背後から圭一が古川をしかりつけた。


 圭一に怒られ、渋々というように奏斗の席に腰かけた古川。

「俺はいつもこんなもんでしょ」

 頬杖をついて微笑んで見せれば、

「なんなの?! 俺のこと口説いてる?!」

と言われてしまった。

 理不尽だ。

「痛ッ」

 古川は圭一にティッシュ箱を投げつけられ悶絶している。

「やかましい」


「仲いいね、大崎と」

 構って欲しいのかと、話題を振るが古川は涙目だ。

「大崎、なんでティッシュボックスなんか持って歩いているのかと思ったら、投げる用なんだよ? 仲いいの? これ」

「まあ、少なくとも仲の悪い奴に投げつけたりしないのでは?」

 古川は納得のいかない顔をしていたが、

「怪我したらどうしてくれるんだよ」

と圭一に抗議している。

「血が出たらそれで拭けばいいだろ。一石二鳥」

と冷たくあしらわれていた。


「で、時に三股疑惑の白石くん」

「な、なに」

 奏斗の肩に腕を回し、声を落とす古川。

「最近特に、年上美女と懇意な関係だって聞いたんだけど?」

 ”彼女の家に入り浸っているとか”と続けて。

 一体どこから情報が洩れているのだろうか。

「入り浸っているわけじゃないけれど……よく映画観たりとかはするかな」

 嘘はないはずだ。

「彼女がいるのに?!」

「古川だってよく大里家にいくじゃない」

「それとこれとは違うよね?」

 奏斗は肩をすくめると、

「どうかな」

とあいまいに笑う。


「それよりも、どっからそういう情報集めてくるわけ?」

「K学の裏掲示板」

 そういえばこの人、高等部時代の生徒会長だったなと思いながら、チラリとスマホの画面に視線を落とす。

「そんなにいろんなこと書かれているわけ?」

「書かれているのは、一部の人だけだねえ」

「古川のは?」

「あるわけないでしょ!」

 ”モテない男は何も書かれないんだよ”とハンカチを噛みしめるフリをする古川。


「じゃあ、高等部時代の噂とかは……」

「ああいうのはNGだから。ファンの情報程度なら俺たちも見逃しもするけれど”住所やメッセージアプリのID”とかさ、そういうのは見つけ次第削除と垢バンよ」

「俺たち?」

「そそ。中等部、高等部で生徒会や風紀委員会に所属していた奴らは、運営の作業手伝ってるんだよ」

「へえ」

 K学園の裏掲示板は裏と言いながらほとんどの学生が閲覧している人気のサイトだ。

「悪口とかだめだよね。炎上しちゃうし」

「ちょ……待って。三股疑惑は消してくれないわけ?」

 奏斗は思わず、そう質問した。


「いやいやいや、あれは『白石くん、最近○○さんとよく一緒にいる』程度の情報よ? 三股疑惑は俺がかけてるの!」

「そ、そうなんだ」

 どうやら書かれている情報は大したことではないようだ。それを総合して古川が妄想し、奏斗に突き付けているというのが真相。

 高等部時代の噂は口頭で広がっていったようだ。

「どっちにしても揉めないように注意が必要なんじゃ? 見ているとは限らないけれど」

 それは恋人がということなのだろうが、奏斗が恐れているのは愛美だ。


──まずいな。筒抜けってことか。


 結菜も花穂も裏掲示板の書き込みは見そうではないが、愛美は違うだろう。

 用があると誘いを断って、花穂といることがバレたら何を言われるかわからない。


「彼女じゃないのに……」

 ため息とともに零れ落ちた言葉。

「何か言った?」

と古川。

「帰るわ」

「へ?」

 奏斗は立ち上がると鞄を肩にかけ、圭一に目でだけで合図すると講堂を出た。


 愛美に会うのは気が重い。

 いくら言っても、言葉は届かないから。

 とは言え、逃げてばかりでは何も解決はしない。


──結菜に守られているうちは、対等に話をすることはできないのかもしれない。

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