3話 愁いと日常【side:奏斗】
9 友人とのひと時
翌日、恋人【大川結菜】とのデートを楽しんだのち彼女を自宅まで送り届け、帰宅しようとしたところ友人の
夕飯を一緒にどうかというのだ、大崎圭一のおごりで。
相変わらず仲が良いなと思いながら待ち合わせ場所に向かう。
「早かったね、色男」
駐車場に車を停め、店の入り口に行くと、そう古川に声をかけられ奏斗は眉を寄せる。圭一の方は軽く片手をあげた。
「その呼び方はやめろって」
苦笑いする奏斗。
「僻むのもいい加減にしないと、嫌われるぞ」
両手をポケットに入れ、黙って立っていた圭一が助け舟を出してくれる。
「ところで、今日は一緒じゃないのか? 大里姉妹は」
と奏斗。
店のドアを開けた圭一は立ち止まると、
「いつも一緒というわけじゃない」
と肩を竦めた。
「今日は会議があるんだって、ミノリちゃん。愛花先輩のほうは知らない」
「会議?」
圭一が中に入っていくので、古川は”そそ”と言いながらそれに続く。
圭一と大里姉妹は幼馴染み。古川も中途からの仲良しということで四人はセットのように感じていた。実際は圭一の元にそれぞれが集まるだけで、いつも一緒というわけではないらしい。
話すようになったのは高等部からだが、中・高・大と同じ学園にいるからか、自然と話題は学園中心の話しとなってくる。そして恋愛観へと。
圭一には年上の婚約者がいる。大学卒業と共に籍を入れる約束をしているらしい。
古川の好きな相手は圭一のことが好きらしい。だが当の圭一はそのことに気づいてはいない。
何とも複雑な心境になる話だ。
「白石って、あの大川の令嬢とつきってるんでしょ? やっぱりそういうことしたりするの?」
「そういうことって?」
古川にそう聞かれ、なんのことかわからず聞き返せば、
「古川、そういうのはセクハラだぞ」
と圭一。
その一言で何のことか察した奏斗は、
「結菜とはあんまり」
と答える。
付き合って一年になるのに、結菜とは牛歩な恋愛関係を続けていた。数えるほどしか”そういうこと”はしたことがない。
「え? 何、なんで? いやいやラブラブならそういうことガンガンするんじゃないの?」
”ねえ、大崎”と隣の圭一に話をふる古川。
「なんで、俺に聞くんだよ」
案の定、困惑顔の圭一。しかし彼が恋人とラブラブなのは友人の間では有名な話だ。大方、古川のせいだとは思うが。
「なんなの? 二股もかけているくせに、白石は枯れてんの?」
「そうかもね」
奏斗はめんどうなことになりそうだったので、特に否定はせずアイスティーに手を伸ばす。
だが、圭一が”嘘だろ?”と言いたげな顔をしてこちらを見ていたため、奏斗は思わず吹いた。
「何してんの、白石」
「あ、いや」
奏斗は口元を拭きながら、
「眼だけでツッコむのやめてよ」
と圭一に向って言う。
すると古川の視線は彼に向かう。
「時に白石くん」
急に古川よりくんづけで呼ばれ、奏斗はなんだか嫌な予感がした。
「君に三股疑惑が浮上しているんだけれど?」
「え?」
反応したのは圭一だ。
一体どこから情報を仕入れてくるのやらと思いながらも、奏斗は黙ってその先を待つ。
「昨日、楠先輩とデートしてたとか」
そうなの? という圭一の視線が痛い。
「花穂は友達」
「花穂! 白石はそうやって気安く女性の名を呼んでいるわけですね?」
そう来たか。奏斗はどう返していいか分からず、黙った。
「もーホント。なんなの? 白石。どうしたらそんなに次から次へと女の子と知り合えるの?!」
「古川、男は一途が一番だぞ」
古川を宥めにかかる圭一。
向こうから寄ってくるとか言ったら殺されそうだなと思い、奏斗は黙秘を決め込む。
と、そこで奏斗のスマホがブルっと震えた。
これで質問から脱却できるなと思いながら画面に視線を向けると、花穂であった。どうやら映画の誘いの様だ。行くという旨を返信すると、やんや言っている古川に向き直る。
「古川は出会いを求めているのか?」
それは単純な疑問。羨ましがるということは、そういうことなのだろうか? と思いながら。
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