不器用な守り方

「というと?」

 アルがすかさず訊ねた。

「……カニエルが殴った相手はここ数年、領内で強盗や殺人を繰り返している集団のメンバーでした。男をその場で捕らえたは良いものの今度は、どういう訳か私の命が狙われるようになりました。だから、だからカニエルは私と結婚することで私の命を守ろうとしてくれたのです」

「ちょっと待って! カニエルはそんなこと、一言も……、あ」

 カニエルのことだ。どうせ言わずに突き放した方が私を守れるとでも思ったのだろう。だが、それはあまりにも不器用過ぎる人の守り方なのじゃないかという気もする。


「そういうことだったのか……」

 アルもどうやら納得したようだった。

 これではっきりした。カニエルが突然、婚約破棄をしたこと、私に冷たく当たるようになったことの理由が。

「だけど、今の問題はそんなカニエルがなぜ、妻であるミシェルさんから不倫と思われるような行動をしてるのかということだね」

 確かに、それはそうだ。そんな人がなぜ妻に不倫だと思わせてしまうような行動を取っているのだろう。

「そうね、一体どうして?」

 アルは私に向かって頷くと、今度はミシェルに向かって話しを始めた。

「ミシェルさん、力を貸しましょう。まずは、不倫しているという具体的な行動とそれをあなたがどう知ったのか教えていただけないでしょうか」

「……ありがとうございます!」

 ミシェルは頭を下げた。それから頭を上げて、説明を始めた。


「三週間くらい前のことです。私一人で出かけていたのですが、大通りで偶然夫を見かけたのです。その時、横に綺麗な女性がいることに気づいて。私は思わず隠れました。私は何かまずいものを見た。そう思いました。夫は私に気づいてなかった様子でその女性と親しそうにしていました。手を繋いだりもしていたと思います。それから数分後に夫は女性に何かの封筒を渡してその場を後にしました。私はしばらくの間、隠れていた物陰から動けませんでした……」

「なるほど……」

「最初はとても嫌でした。ですが、次第に彼の性格を考えるとあの女性と親しそうにしているのには何か裏があるのではないかと思ったんです。そこで私なりに夫の行動を調べてみたんです」


 ミシェルはバックから手帳を出してそれを開いた。

「これは夫のスケジュール帳をできる限り正確に書き写した物になります。例えば、今月の最初の水曜日のところに暁って書いてありますよね」

 彼女が指差す先には確かに暁と書かれていた。

「この日に先ほど話した通りの出来事があったんです。それで、思ったんです。暁とスケジュール帳に書いた日に彼は例の女性と会っているのではないかと」

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