捨てた理由
「はあ!」
頭に来た。カニエルの奴、私を捨てて秘書と結婚した挙句に不倫するとは。
「カニエルめ、許せん!」
「落ち着いてエリ」
アルも心なしか語尾が強くなっているような気がする。
「でも!」
「僕だって怒ってるよ」
「あ、あの」
ミシェルが申し訳なさそうにさっき以上に頭を下げた。私とアルはひとまず静かにする。話はまだ続いている。
「それで、調べてほしいのです。カニエルのことを」
「これまたどうして、僕らに頼むのですか?」
彼女は頭を上げて私たちの方をまっすぐと見つめてきた。
「それは、カニエルがどうしてそんなことをしているのか気になっているからです。私はどうしても夫がただ不倫しているようには思えないのです。それと、アルバート王子とエリーナ妃がこれまで領内で起きた幾つかの事件を解決したという話を聞いたからもあります。お二方ならば、何か見えていない事実を照らし出してくれるのではないか。そう思ったからです」
そこまで言い切ると彼女は再び頭を下げた。
「私も夫のことが許せないのです。夫がどうして不倫をしているのか、ちゃんと理由を知った上で私は、彼を殴ろうと思います。エリーナ様が夫と私のことで深く傷ついたことは重々承知しております。あの時は、本当に申し訳ございませんでした。ですが、彼に傷つけられた者同士として、どうか、手を貸していただけないでしょうか。よろしくお願いいたします」
それから私とアルはしばらく何も言えなかった。その間、ミシェルはずっと頭を下げ続けていた。
私はとうとう耐えきれなくなって、ミシェルに一つ聞いてみた。
「なぜ、カニエルが私を捨ててあなたと結婚したのか、理由は知ってるの?」
「知っています……」
「ならば教えて、どうしてカニエルはあんなことをしたの? 力を貸すかどうかはそれ次第」
ミシェルが頭を上げる。
「わかりました。お伝えします。実は、一年以上前に私が男に付き纏われておりまして」
「付き纏われていた?」
そんな話は聞いたことがない。初耳だ。
「状況が次第にエスカレートしていって、カニエルとエリーナ様が式を挙げる直前の頃に突然襲われたのです。その場はなんとか逃げたのですが、追いかけられて、どうにかしてその時カニエルのいた役所に逃げ込みました。カニエルにそのことを伝えると彼は、追いかけてきた男のことを殴ってくれたのです」
この話を聞いて、なんとなく、彼ならそうするだろうなと思った。私がかつて知っていたカニエルはこういう男なのだ。
ミシェルの話は続く。
「ただ、殴った相手がとても悪かったのです。だから、彼は、私と結婚せざるを得なくなってしまったのです……」
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