二つの嘘

「二つの嘘?」

「そう。エリも思い返せば大体のことはわかるんじゃないかな」

 二つの嘘。確かにアルの言う通りその言葉には聞き覚えがあった。アナ先生が手紙に書いていたことである。確か友人が夫婦仲を保つため、夫に二つ嘘をついているという話だった。ここで私は気づいた。もし、友人の話がアナ先生なりの種明かしなのだとしたら。それが本当ならば、アナ先生はなんて正直な人なんだ。

「ああ、なんだそういうことか」

 思わずため息をついてしまった。

「はは、そうなるよね」

「でも、なんでアナ先生はそんなことを?」


「それは、今日のジョージの様子を見ていたらきっと理解できるよ」

 ジョージさんの今日一日の様子を思い出す。すると、アナ先生があの手紙を書いている時の考えがなんとなくわかったような気がした。

「はは、確かにあの様子じゃ、これくらいしないとダメか」

 それとアルがどうしてこの事を言わなかったのかも理解できた。


「そうだね。問題は、明日彼が勇気を持ってプロポーズできるかどうか」

「うーん、そうね。アナ先生にとってもこれは一か八かの大勝負なのでしょうし、彼にはちゃんと言って欲しいな」

「だね」


 それから私は急いで今回の件の要点を紙に書いた。今回の件の真相はこうである。

 まず、前提として二人はお互いに結婚したいと思っていた。だが、どちらからもその話を切り出せずにいたのだと思われる。


 アナ先生は何らかのきっかけがあってこの状況に決着をつけたくなったのだろう。だが、ジョージさんが勇気を出してプロポーズしてくれる可能性は高くなかった。なぜならば、彼は重大なことになると悩んでしまうからである。また、アナ先生の方から直接言うのは、おそらく彼女自身できないと思っていたのだろうか。とにかく、彼女は結婚の話を持ち出そうにも言い出せなくなってしまったのだ。そんな状況で思い出したのは、夫婦仲を保つために二つの嘘をついているという友人の話だった。


 アナ先生はその友人の話を参考にして、ジョージさんに対して二つの嘘をつくことにした。一つは、自分が病気であること。もう一つは、自殺をしようとしていることである。この二つの嘘をつくことによって、ジョージさんにプロポーズをしてもらうことを狙ったのである。だが、嘘をつくのが申し訳なかったのか、アナ先生は友人の話をすることで、暗にこれから自分が嘘をつくことを伝えていたのである。だが、ジョージさんは狙い通り嘘に引っかかり、彼は私とアルに相談して、最終的にプロポーズを決意したのである。


 アナ先生の作戦はもうすぐ成功しようとしている。


 

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