決意を持って

「アル!」

 夕日が差し始めた頃だった。アルは応接室に入ると、部屋を見回す。

「クロースから急ぎで戻ってきて欲しいと頼まれたから何事かと思ったら、なるほど。ジョージ、久しぶり」

「お久しぶりです、アルバート王子」

 ジョージさんが立ち上がって一礼をする。


「この場では堅苦しいのはなしで大丈夫」

「わ、わかった」

 ジョージさんはそう言われると、すぐに椅子に座り直した。

「うん。エリ、状況を説明してほしい」


 私は立ち上がるとジョージさんの身に起きた事を一通りアルに向けて話した。私が情報の整理をした紙も併せて見せる。一通りの話を終えると彼は少し頭に手を当てた。

「アル、どうしたら良いかな? 話を聞いているうちに私もどうしたらいいのかわからなくなってきて……」

「でも、エリとしては、アナさんには死んでほしくないんだろ?」

 アルにそう言われて、私は頭の中で悩んでいたことが晴れたような気がした。


 私は答える。

「その通りよ。アナさんには明日死んでほしくない」

「わかった。ジョージ、あなたに宛てられた手紙の現物を見せてほしい」

「わかった」


 ジョージさんはアルに例の手紙を封筒ごと渡す。アルは渡された封筒から手紙を取り出して、それを読み始めた。それから読み終わるまでには少し時間がかかった。しばらくして読み終えた様子の彼は手紙を折り畳んで、封筒に戻した。

「そういうことか……」

「どう?」

「状況は大方理解できたと思う。今の問題は、ジョージがどうしたいのか、ということだよね」

「そうよ」


 アルは椅子に座るとすぐにこう言った。

「ジョージ、今、あなたは色々な考えが浮かんでしまって、どう行動したらいいのか悩んでいるのだろう。そこで一つ教えてくれないか。今置かれている状況や彼女の意思を尊重したいという考えを全て取っ払ってあなた自身は、アナさんに何と言いたい」

「えっ?」

「あなた自身はどうしたいのかを聞いているんだ」

 アルはその目をまっすぐジョージさんに向けていた。

「頼む答えてくれ」


 ジョージさんは一瞬だけ何かを躊躇ったように見えた。だが、彼はすぐに決意を持った表情へと変わった。

「お、俺は、アナさんには明日死んでほしくないと思っている。できることならば、俺と結婚してほしい。例え彼女の命がそんなに長くなくとも。だって、今まで会ってきた人の中でここまで良いなと思えた人は彼女しかいないから」


 今度は彼の目が真っ直ぐにアルに向けられる。アルはそれを一切逸らさずに受け止めていた。

 アルは言う。

「じゃあ、それをアナさんに直接伝えれば良いじゃないか」

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