置かれた状況

 私はジョージさんの意思を聞く前に今一度、彼の置かれている状況を整理することにした。

 応接室にあった紙とペンを使って今まで出た情報を整理していく。


 はじめにジョージさんとアナ先生が出会ったのが今から二年前。ジョージさんの友人が開いたパーティーの場で出会い、話が合ったのだという。そこからデートを重ねて、手紙のやり取りもするようになった。そういった状況が二年程続いている。だが、今日になって突然アナ先生の方から手紙が届いた。

 その手紙には大まかに二つの事柄が書かれている。


 一つ目。アナ先生の友人が夫婦仲を保つために夫に対して二つの嘘をついていること。

 二つ目。アナ先生が病気であること。医者によると持ってあと一年だということ。だから、明日、ジョージさんとよく行ったという湖で入水自殺をしようとしていること。


 ジョージさんは特に二つ目の内容でショックを受け、昔からの友人であるアルに相談をすることにした。


 これが、今ジョージさんが置かれている状況である。

 この手紙を素直に受け取るのなら、アナ先生は明日自殺をしようとしている。では、ジョージさんは一体どうしたいのだろうか?

 私はそこが知りたい。


 紙に情報を書き上げてペンを置いた私は、先程よりも落ち着いた様子のジョージさんに質問してみることにした。

「ジョージさん、単刀直入にお伺いします。あなたはこの状況をどうしたいのですか?」

「……」


 ジョージさんは頭を抱えた。やはり悩んでいるらしい。ジョージさんの言葉からはこの件をどうしたいのかが見えてこなかった。だからこそ、率直な考えを聞いてみることにした。やがて、彼はようやく答えてくれた。

「わからないんです。大事な人が死にたいと言っている時になんて返してあげたら良いのか。それを肯定してあげればいいのか、死なないでと説得してあげたらいいのかが私にはわからない」

「どうして、大事な人が死にたいという意思を肯定しようとするのですか?」


 彼は目に涙を浮かべながら言った。

「だって、彼女がそうしたいというなら、とやかく言えないじゃないですか。でも、彼女には少しでも長く生きてほしい……」

 

 ジョージさんの中ではアナ先生の意思を尊重したい思いと、彼女を説得して少しでも長く生きてほしいという思いが対立していた。

 もし、このことが自分の身にも起きたら、私はどんな選択をするのだろうか。気づけば、私の方まで悩んでいた。


 すると、扉を叩く音がした。

「はい」

 私がそう言うと扉の向こうからアルが現れた。

「お待たせ」


 

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