精一杯できること

「ちょっと、失礼します」

「どちらへ?」

「アルバート様をすぐに呼び出せないか試してみます」

 私はまずクロースさんを呼ぶことにした。今さっきまでいた応接室を出て、彼を探す。

「クロースさん!」

 声をかけるとクロースさんはすぐに駆けつけてくれた。

「はい、何でしょうか?」


「アルをすぐに呼び出せないかしら? お客様のジョージさんのことで急ぎの用事なの」

「わかりました。やれるだけのことはやってみます」

 クロースさんはすぐに向こうの方へと走り出していった。それと入れ替わるようにロンが私のそばまでやってきた。

「クロースさんが急いでいるようでしたけど、何かありましたか?」

「そうなの。先程来たお客さんのことで急ぎの用事」

「そうですか」


 ここでふと思い立つ。ジョージさんの苦しみを少しでも和らげることはできないだろうか。お香のような何かで少しでも落ち着いてもらえるよう、ロンにその調合を頼むことにした。

「あ、そうだ。気持ちを落ち着かせるような何かって用意できない?」

「用意はすぐにできますよ。お客さんの件でですよね?」

「そうよ。アルに相談したいことがあるんだけど、アルが帰ってくるまでの間で少しでも気持ちを楽にしていて欲しくて。用意ができたら、向こうの応接室に持ってきてくれる」

「わかりました。できるだけ急ぎます」

「お願いね」

「はい」


 ロンにお願い事を済ますと私はジョージさんのいる応接室へと戻った。彼の様子を見るとやはり不安げで苦しんでいるように見えた。

「戻りました。すみません」

「いえ、お気になさらず」

「今、アルバート様を呼び出していますので、もうしばらくお待ちください」

「ありがとうございます。わざわざ、私のためにここまで」

「良いんですよ。これくらい」

「……」


 ジョージさんの方からはそれきり何も話してくれなかった。そういう状況が少しの間続いていたが、やがて扉をノックする音がした。

「ロンです。用意ができたのでお持ちしました」

「入って」

 私がそういうと彼はすぐに扉を開いた。手には煙を立てた試験管を持っている。

「気持ちを落ち着かせる成分がある植物なんかを混ぜて、それらを焚いています」

「ありがとう、ロン」

「いえいえ」

 ジョージさんは驚いたような表情をしてこう言った。

「わざわざ、ここまでしていただいて本当にありがとうございます」

 彼の感謝の念が伝わってきて私は嬉しくなった。


 程なくしてロンが用意してくれたものが効いてきたのかジョージさんの表情が幾らか明るくなった。

 彼が落ち着いたのを見計らって、私は、彼の意思を聞いてみることにした。

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