打ち明けられた事実

 私は差し出された手紙を受け取る。外側だけを見るなら至って普通の封筒である。開封は既にされていて、ジョージさんが届いてすぐに読んだのだろう。

「中も見て良いですよ」

 彼にそう言われたので、封筒から中身を取り出す。折り畳まれていた紙を開いて文章に目を通す。はじめはありふれたことが書かれていた。ジョージさんとアナ先生の仲の良さが垣間見える。正直、二人以外の誰かが読んでよかったのだろうか、と思う程である。だが、読み進めていくうちに文章の内容に少し影みたいなものを感じはじめた。やがて、ある部分にたどり着く。


「親愛なるジョージへ。先月の散歩はどうもありがとう。久しぶりに運動したからとても楽しかったわ。さて、一週間前に友人と会って話をしていたらこんな話題になったの。友人には結婚して五年になる夫がいるのだけれど、五年も経ってくるとお互いに心がときめくことが減ってきたんだってさ。だから友人が夫婦関係を円満にするために思いついたことがあるんだってさ。それはね、夫との会話でわざと実在しない男の名前を出すこと、日々の生活で少し体の調子が悪いって嘘をつくことなんですって。男からしたら酷い話かもしれないけど、それで案外友人夫婦は前よりも関係がうまくいくようになったみたい。この話を聞いて私は二つだけ嘘をつけば人生うまくいくのかもしれないわねと思ったわ。ところで、ジョージ。あなたに大事なことを言うわ。私の命はね、そう長くないの。後一年くらいとお医者様から言われたわ。だからジョージ、私は明日、二人でよく行った湖で楽になろうと思うの。だから明日、湖においで。待ってるわ。アナより」


 私は思わず、この手紙の全文を音読していた。どう反応して良いのかがわからない。ジョージさんはというと、先程よりも辛そうな顔をしている。

「今朝、突然届いたのです。急いで読んだら、こんなことが書かれていて。どうしたら良いのか、わからなくなったんです」

「……」


 ジョージさんは頭を抱えていた。大切な人から突然、こんなことを言われたら誰だって動揺してしまうだろう。

「この事は誰にも言わないほうが良いとはわかっているのです。でも、どうしても誰かを頼らずにはいられなかった……」

 彼の気持ちが伝わってくる。一番辛い時に誰にも話せないのは苦しい事である。こういう時にアルがいたら、どんな反応をするのだろうか。きっとアルなら、ジョージさんがどうしたら良いのかを考えてくれるのだろう。だが、アルが帰ってくるまでまだしばらくはある。


 今は、私にできることを精一杯やるしかなさそうだった。

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