出会い話
少し間を開けてから、ジョージさんは淡々とした口調で再び話し始めた。
「二年前の今頃ですね。私は友人が主催するパーティーに出席しました。友人が主催しているという理由だけで行ったので、特に目的もなく会場内をうろうろしていたのです。そこで、あの人と出会いました」
「あの人?」
「アナ、という女性です。彼女はテスラ家の令嬢で、文筆家をされているそうです」
「アナ先生!」
テスラ家というのは、国内では有名な商家の一つ。テスラ家の令嬢であるアナ・テスラは文筆家として有名なのだ。彼女は既に数多くの作品を書かれていて、近頃は新作を出せばすぐに巷で話題になる。彼女は随筆や詩、小説など幅広いジャンルを書くのだが、特に小説については、男女の恋模様を主題にすることが多い。男女の気持ちの細かい変化を描くことに定評があり、私もよく読んでいる作家の一人だ。
「そうです。私も彼女の随筆はもともと読んでいて、初めて会った時驚いてしまいました。ただ、私は恋愛を描いた小説は少し慣れなくて、まだ彼女の小説を読んだことはないのですが……」
「それで、どうなったのですか?」
「初めて言葉を交わしてみて、すぐに息が合ったんですよ。話していてお互いに楽しいとおもえたんです。こんなこと、私にとっては初めてで、だから、勢いでまた会いませんかと言ってしまったのです」
ジョージさんはそこで一旦、話を切って、それから紅茶を飲んだ。私にはこの時点で、この話がどこに着地をするのかが見えていた。興味深い話である。彼が次に何を語るのかを待つ。悩むような仕草をした彼は、庭が見える窓の方に目を向けた。
「勢いでそう言ったら、彼女はすぐに良いよと言ってくれました」
「おお」
「それでパーティーから少しして本当に二人で会いました。そこでもやはり盛り上がって。そういうことが何度か続きました」
「それは良いことじゃないですか」
「まあ……」
幸せそうな話をしているのにジョージさんの顔は晴れない。アルに相談したいというのは、この事なのだろうか。話は続く。
「それで、程なくして手紙のやり取りもするようになりました。彼女の書く文字からは優しさが伝わってきて、私はそれが嬉しくて、返事を書くときには考えてから書くようにしています」
「ジョージさんの中でそれくらい、アナ先生のことが大事なんですね」
「はい」
ジョージさんがどれほどアナ先生のことが大事にしているのかが感じ取れて、私は心が温かくなった。今度は私の方が紅茶を一口飲むと、彼は一枚の封筒を差し出してきた。
「実は、アルバート王子に相談したいのは、この手紙のことなんです」
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