第4章 二つの嘘

突然の来客

「アルバート王子はいらっしゃいますか?」

 晴れた日の昼下がり、城の正門前から響きの良い大きな声が聞こえてきた。正門が見える窓から外を覗くと、凛々しい男性が一人立っていた。今日は来客の予定はあっただろうか。すぐにクロースさんたちが外に出て突然の来客者である彼と何らかの話し合いが始まった。ちなみにアル本人はこういう時に限って不在なのだ。帰ってくるのはまだ先だろう。少しの間、様子を眺めていると話が着いたのか男性は城内に通された。あの男性は一体誰なのだろうか。ひとまずは、挨拶に行ってみようと思った私は少し早足で移動を始めた。


 一階に降りると例の男性とはすぐに会えた。その男性は近くで見ても、やはり背が高くて整った顔をしている。ただ、男性の表情は少し疲れている様に見えた。挨拶をしようとして先に声をかけたのは、男性の方だった。

「はじめまして。突然押しかけてきてすみません。もしかして、あなたがアルバート王子の妻であるエリーナ妃ですか」

「そうです。はじめまして」


「やはりそうでしたか。私の名はジョージといいます。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ひとまず、向こうの部屋でお茶でもしませんか?」

「それはありがたい。ぜひそうさせてください」

 私がこう言うとジョージさんの表情はいくらか安らいだ。私はクロースさんに頼んで紅茶の用意した。


 テーブルに向かい合って座った私とジョージさんは紅茶の用意ができるのを待ちながら幾らか話をすることにした。彼の家は有名な貿易商であり、近いうちにジョージさんは父親から幾つかの事業を引き継ぐのだという。

 仕事でどんなことをしているのかを聞くと彼は、楽しそうに多くのことを教えてくれた。だが、それらの話が終わるとすぐにまた疲れた顔をしはじめた。


 少しの間無言が続き、やがてクロースさんが紅茶を持ってきてくれた。用意された物をそれぞれ飲み始めると彼は先ほどよりも真剣な口調で話し始めた。

「アルバート王子とは昔からの付き合いで、本日は急ぎの相談がありここまでやってきた次第です」

「そうだったのですね。アルバート様が帰ってこられるのは夕方を過ぎると思うのですが、どうなされますか」


 いつもの通りならアルは夕方を過ぎてからこの城に戻ってくることが多い。だから私は、ジョージさんは要件を私に伝えるなり、手紙を用意するなりしてすぐに帰ってしまうのかと思っていた。おそらく普通ならそうするだろう。彼は間を空けないでこう答えた。

「それなら、ここで彼が戻ってくるのを待ちます」


 私にとっては意外な返事だった。ここでふと興味が湧く。一体、ジョージさんは何をアルに相談したいのだろうか。私は彼にそのことを聞いてみることにした。

「わかりました。あと、もしよかったら私もお話を聞いてもよろしいでしょうか?」

 すると彼は今度は少し考えるように仕草をしてからこう答えた。

「ありがとうございます。そうですね、話せば長くなります。あれは、今から二年前のことです……」

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