自分への嘘

 詐欺グループを捕まえてから数日が経って、マチルダが私のもとを訪ねてきた。ちなみにアルは公務で留守である。

 庭に出て彼女と一緒に草花を眺める。彼女のショックは大きかったらしく結婚式の日から、あるいは私たちが一緒だった寄宿学校時代から比べていくらか痩せ細っていたように見えた。

「マチルダ、もしかしてこの前のことで痩せた?」

「ええ、そんなことないよ。昔からこれくらいの細さよ。失礼しちゃうわね」

 マチルダが笑う。私は全く笑えなかった。二人そろって庭に置いてある椅子に腰掛ける。

「あの後、エリーナがロナルドを見つけようとしてくれたって聞いたわ。ありがとう」

「いいのよ。あんな事になって私もロナルドを許せなかったから」

「本当にありがとう。それで、あれからどうなったか私にも詳しく教えてほしいな」

「聞いて大丈夫?」

「うん」

「わかった」


 私は詐欺グループにはまだ仲間がいて見つかっていないことや、ロナルドを結局見つけられなかったことなどについてできるだけ細かく話した。その話を聞いているマチルダは見てるだけで辛そうだった。

 一通り話し終えたところで私はマチルダが今にも倒れそうな気がしてきた。

「マチルダ、あれから大丈夫なの?」

「大丈夫よ、私は」

 彼女は本当に大丈夫なのだろうか。私には彼女が空元気を出しているようにしか見えない。

 マチルダはいつもそうだ。何かあった時、本当は全く大丈夫じゃないのに、空元気を出して周りには大丈夫なように振る舞うところがある。私は彼女のその態度が何となく苦手なのだ。周りに心配をかけまいとして元気そうに振る舞う姿が私にはかえって悲しかったのだ。それはまるで……。


「向こうの花を近くで見たいな」

 私の心配をよそにマチルダは元気そうなふりをして立ち上がった。だが、彼女は歩き出してすぐに倒れそうになった。急いで彼女のことを支える。

「ねえ、本当に元気なの?」

「そう言ってるじゃん……」

「私には、そうは見えない……」

「……そう」

「あなたは、昔からいつもそうよ。あなたにとって何か嫌だったり辛かったりした時、周りの誰にも迷惑や心配をかけまいとその後しばらく何にもなかったかのように元気そうに振る舞っていた。私はそれを見ていて悲しかった。まるで、あなたがあなた自身に嘘をついているみたいで。

 だからお願い、今、ここでは辛いって言って。大丈夫じゃないって言って。お願いだから。そうしないと、あなた今死にそうなのよ……」


 気づけば私は彼女が苦手だった全ての理由を彼女にぶつけていた。何と言い返されるのか言ってから気になってしまう。だが、彼女から出た言葉はあまりにも弱々しかった。

「……そうか、私、辛いんだ。悲しいんだ。そうか、そうなんだね、私」


 それからマチルダは、結婚式の当日、ロナルドに逃げられた時以上の涙を無言で流した。

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