知っていること

 夜になって城へ戻った私とロンはマチルダの一件についてアルに聞くことにした。幸いアルは公務を終えて戻っているという。私は勢いづけて彼の部屋の扉を開けた。

「アル! この前私に言えなかったことって、今日のことだったんでしょ!」

「どうしたのエリ。急に言われても僕には何がなんだかわからない」

「その、先日アル王子が予想していた通りのことが起こったのです」


 ロンが今日起きたことを粗方話すとアルは表情を曇らせた。

「そうか、そうじゃない可能性も信じてたんだけど……」

「やっぱりわかっていたのね」

「ええ、だからこそエリには言いたくなかった。確信のない状況でエリを不安にさせたくなかったからね」

 彼の口からこう言われて私はなぜだか嬉しくなった。そうか、この前言いたくなかったのは私に不安になってほしくなかったからだったのか。この前から抱えていたモヤモヤが晴れていく。だが、今度はマチルダの件をなんとかしないとという気持ちになった。


「ねえ、アルが知っていること、私にも教えて。こうなったら私、黙っていられない」

 私にとってマチルダは少し苦手な相手ではあるが、それでも目も前で彼女が悲しんでいる姿は見たくなかった。だが、今の彼女は悲しみの底へと沈んでしまった。私は彼女を騙したヤツを許したくない。


 アルは私の顔をしばし見つめると、少し笑ってから返事をした。

「良いよ。こうなったら僕らでマチルダさんを騙したヤツを見つけ出そうじゃないか」

 アルが自分の椅子に座る。続けて私とロンも部屋にある椅子を並べて座った。

「僕の方に上がった報告だと先月くらいから領内で、結婚を約束して結婚式の準備までしていた新郎あるいは新婦が姿を消したという話が二十件近確認されたそうだ」

「それで?」

「その被害者たちは皆、逃げられた上に理由をつけられて貸したお金も持ち逃げされたそうだ」

「マチルダも言っていたわ。結婚式の費用をいくらかマチルダの方で持ってほしいからと頼まれてかなりの額を渡してしまったそうよ」

「なるほど。実はこの一連の件には共通項があって、被害に遭った人たちは全員、それなり以上の資産を持った家の人間なんだそうだ」

「なるほどね。そうするとマチルダもそうね。彼女の実家は地元では名の通った名家よ」

「ということは、この共通項は意味のあるものようだね。おそらくだが、大金を手に入れるために資産のある相手ばかりを狙っているのだろう」


「そうね。でも気になるのは、一人の詐欺師がこの短期間で何人もの人を騙せるものなの?」

 するとアルは少し深刻な顔をした。おそらく、彼もこの状況を知ってわかっていたことなのだろう。私も言ってから彼女が気がついた。もしかするとこれは、

「エリ、もしかすると、これは単独犯ではなくてグループで動いているんだと思う」

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