聞かれたくないこと

 その夜、城に戻ってきたアルとロンに昼間届いた手紙のことを話した。話を終えると二人とも嬉しそうな顔をしていた。

「それは良い話だね。僕はその日、公務が入っているから式に行くのは難しいけど、彼女におめでとうと伝えてくれ」

「僕からもおめでとうございます」

「二人ともありがとう。当日マチルダに伝えておくわ」

 アルもロンも一度も会ったことがない人の結婚を喜んでくれるあたり、彼らはなんて優しい人たちなんだろうと思う。


 少し間があったところでロンが手を上げた。

「ところで、マチルダさんのお相手ってどんな方なんですか?」

「手紙によると、容姿端麗で優しい方ですって。石炭の採掘場を経営しているらしくて今儲かっているそうよ」

「それは良いですね!」

 ロンが嬉しげになる一方で、アルの表情が少し曇ったような気がした。

「どうしたのアル? 急に顔を曇らせて」

「ああ、え、そう見えた? ごめんごめん。なんでもないよ」

「そ、そう。こっちこそ、なんかごめんね」

「あはは、疲れてるのかな? もう寝ようかな……」

 アルはいつも通りの笑顔に戻って、席を立った。今のは気のせいだったのだろうか?


 アルはそのまま寝室に向かうかと思いきや、ロンの方を向いた。

「あ、そうだ、ロン。今度手伝ってもらいたいことがあるんだ。寝る前に話を聞いてくれる?」

「え、それなら今ここでも良いじゃないですか?」

「いや、今はエリに聞かれたくないんだ」

 え、私に聞かれたくないことだって……。それって、それって……。

「聞かれたくないことって何よそれ!」

「ほら、エリさん怒っちゃったじゃないですか!」

「あ、ごめん、エリ……」

 するとアルはいつもの謝る時以上に深く頭を下げた。

「こ、こちらこそ、カッとなってごめん……」

 なんだろう。謝られてもなんかモヤモヤが残ってしまった。でも、このモヤモヤの正体をうまく説明できない。結局、アルは「また明日話す」とロンに言って寝室に行ってしまった。


「なんか、ごめんなさい」

 しばらくしてロンまで謝ってきた。

「いや、ロンが謝ることないでしょ。あれはアルの自滅よ」

「いや、確かにそうですけど、なんか気が気じゃなくて……」

 どうしよう。なんかモヤモヤがさらに増えてしまった。うーん……。

「私も寝るわ」

「え、あ、はい……」

 ロンはどこか心配そうに私を見ていた。なんだか心配をかけてしまって申し訳ないとは思いつつ、この気持ちをどうしたらいいのかわからなくなってしまったので自分の部屋へと向かった。


 今晩はどうもうまく寝つけそうにない。

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