第3章 走り来る新婦
届いた手紙
晴れの日が数日前から続いていて気分が良かったので、私は庭に出て紅茶を楽しんでいる。遠い異国の地から届いた茶葉から淹れたそれは、甘すぎず苦すぎず、程よい味わいと気品のある香りで飲みやすい。空は青く澄み渡っていて、庭一面の緑と空の青が調和している。気温もそんなに暑くない。うーむ、今日はなんて良い日なのだろうか。
こんな良い日に限ってアルは公務に出てしまった。せっかくならば二人で紅茶を楽しみたいものである。まあ、アルは王子である以上忙しいのは仕方のないことなのだけど……。またこんな日があれば次は誘ってみようかなと思う。
一人で紅茶を楽しんでいるところにクロースさんがやってきた。クロースさんもこの天気で気分が良いのか、晴れやかな笑顔である。
「エリーナ様にお手紙が届いております。ご確認を」
「ありがとう」
差し出されたのは一通の手紙。私宛に手紙が届くのはアルと一緒に暮らすと決めた時以来、数ヶ月振りだった。手紙の裏を見ると差出人はすぐにわかった。
「マチルダね……」
「エリーナ様、どうかされましたか? 顔が渋いですよ」
「えっ、ああ、大丈夫よ」
思わず表情に出てしまっていたようだ。
「そうですか、ところでマチルダ様とは?」
「ああ、マチルダとは昔からの付き合いなの」
マチルダとは寄宿学校の頃からの付き合いである。明るくて、誰とでもお喋りができて、ちょっと困ったことがあると助けてくれるような良い人ではある。そこに間違いはない。ただ、私が勝手に彼女にちょっとした、うまく説明できない苦手意識を持っているだけである。
そんな彼女がどうして急に手紙なんかを送ってきたのだろうか。手紙の封を開けて中を読むとその答えはすぐにわかった。
「どうされました? ちょっと嬉しそうですよ」
クロースさんが訊ねる。そんなに嬉しそうだったのか今の私は?
「マチルダ、近いうちに結婚するそうよ」
「それは、おめでとうございます」
手紙には近いうちに結婚すること、それに伴い式を挙げることが彼女の文字で記されていた。その文字から彼女の喜びが伝わってきて、彼女のことが少し苦手な私でさえ嬉しくなってしまう。良い手紙である。
手紙の本題は彼女の挙式にできれば来てほしいというものだった。こんな良い手紙を送られてしまったからには行く他にないなと思う。せっかくだからお祝いしておこう。
「クロースさん、便箋を取ってきてもらえる? 返事を書くわ」
「かしこまりました」
クロースさんから便箋とペンを受け取ると私は彼女の結婚式に行く旨を手紙に書いた。
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