騒音の正体

「これが噂の音?」

「間違いなさそうね」

「行ってみよう」

 私たちは騒音が聞こえてくる方へと移動した。歩き始めるとすぐにところに工場が一つ見えた。中の明かりがついている。

「これが密輸の現場?」

「かも。だけどこれだけじゃ証明にならない」

「じゃあ、どうするのよ?」

「一つ考えがある」

 するとアルは何人かの護衛さんに話をしてから工場の中へと進んでいった。私も後をついて行く。


 中に入るとそこでは何人かの人たちが汽車を作っていた。密輸の拠点はここで間違いなさそうだった。そう考えているとアルが大きく手を叩いた。

「はい、そこまで! この中に子供や女性はいますか?」

 アルがこう言うと、何人かの男たちが鋭い目つきでこちらを見てきた。少し怖い。だが、何人かの子供や女性が恐る恐る手を挙げた。

「はい、ありがとうございます! では、国のルールに従いまして、この工場を通報させていただきます!」

「はあ、何ってるんだ!」

 男が一人アルに近寄ってきた。男から放たれる圧がすごい。

「だって、こんな真夜中に子供と女性を働かせちゃダメですよ」

 それでもアルは、極めて普通にしていた。

「コノヤロー」

 すると男がアルに向かって殴りかかろうとした。

「危ない!」

 私がそう言った瞬間にはアルは男の拳をかわしていた。かわしてからすぐに男の腕を掴んで背負い投げにした。つ、強い。

「まったく、なんてことしてるんですか……」

 アルは軽い感じで少しため息をついたのだった。


 朝になって、アルの護衛の一人が役所に連絡を入れてくれたので、役所の人たちが確認のために訪れた。どうやら役所もここ工場のことは気にしていたらしい。

 私は近くのベンチに座って少し休憩をしている。一人でいるとアルがコーヒーカップを二つ持って戻ってきた。

「これ、近所の人からもらったコーヒー」

 温かい湯気が出ているコーヒーが渡される。

「ありがとう」

 私はそのコーヒーに口をつけた。

「いやー、よかったよ。この工場から色々と黒いものが出てきそうだし。これでクリス工場長を助けられると思う」

 アルはとても嬉しそうだった。私も嬉しかった。

「そうだね、良かった。ところで、この工場に子供や女性が居なかったらどうするつもりだったの?」

 私は何気なく聞いてみた。

「その時は日頃暴力を振るわれてるか、とか色々聞いてみたと思う。何かしらには引っかかる可能性が高かったから」

「そっか」

 こう聞いて、私はやはりアルはすごい人なのだなと思った。そんな彼と一緒に人助けができて私はとっても嬉しいのだ。クリス工場長に会いにいこう。そう思った。

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