真夜中に聞こえるもの

 私はそれから数日間、友達や知り合いたちと会って、密輸に関する情報をできる限り集めた。これはクリス工場長のためでもあり、アルのためでもあった。アルのためならできることはする。それが今の私にやれることである。いくらかの情報が集まったところで、私はあることに気づいた。

「アル、少し良いかな?」

「なんですか?」

 公務終わりで帰ってきたアルを引きとめて、私は彼を自分の部屋へと入れた。

「汽車密輸の件、わかってきたことがあるの。これを見て」

 私は街の地図をアルに見せた。地図にはペンで円を書いてある。

「実は、この円の辺りで真夜中に大きな騒音が聞こえるんだって」

「真夜中に?」

「そう。それで調べるとこの円の中に列車工場が一つだけあるの。ここ」

 私は地図の工場の部分を指差した。


「なるほど。まさか、夜な夜な密輸用の汽車をここで作っているのではないかと考えているんだね」

「そう。でもこの話だけじゃ証明にならないよね……」

 そう、これだけの話では確たる証拠にはならないのだ。それは自分でもよくわかっている。アルもそれをわかっていたようで、考え込むような仕草をしていた。一分間くらい考えた後で、アルは何かを思いついたような顔をした。

「じゃあ、こうしないか。僕とエリで実際に夜、この辺りに行ってみる。それで、何か大きな音が聞こえてきたら工場の方に行ってみる。どう?」

 なるほど。アルは自分達で証拠を掴む気なのだ。

「わかった。じゃあ、行きましょう」

「そうだね」


 私とアルは目立たない服装に着替えてすぐに街の方へと向かった。王子と妃の二人だけで行くのも何かあったら大変なので、何人かの護衛も同行している。街に着くと広場や酒場には既に誰も居なかった。近くの時計塔を見ると時刻は午前の一時。私たちは騒音が響き始めるのを待つことにした。

「ねえ、エリ。僕はあなたの夫として頼もしいかな?」

 ベンチに座りながら音を待っているとアルが弱々しく聞いてきた。彼の顔が少し赤い。それに対する答えは簡単だった。

「それはもちろん頼もしいですよ。だって、困っている人のためにここまでのことをしてるのですよ。そんな人が頼もしくないわけないじゃないですか」

 言っているうちに自分の顔まで赤くなってきた。しかも無意識のうちにアルの手を握ってしまったのでもっと恥ずかしくなってしまった。お互い顔が赤くなって、何も言わないで時間だけが過ぎていく。


 その時だった。少し先の方から大きな騒音が聞こえ始めてきた。私たちはすぐに立ち上がって、騒音のする方を向いた。

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