無実の理由

「でっち上げ?」

「そう。エリ、これを見てください」

 アルはそう言って書面を指差した。そこには密輸されたとされる汽車の型式や大きさなどの細かい情報が記されている。

「ここの記述を読んでみてください。密輸している汽車、これはここでは作れない」

「え、そうなの?」

「そうですよね、工場長」

 工場長は書面を今度はじっくりと読んだ。

「確かにそうです。この型の汽車はここの工場では作れる部品も持ってないし、作れる技師も居ないです」

 アルは書面を読んだ瞬間にこの工場の情報と照らし合わせていたのだ。私は全く気づかなかった。


 ここまで分かって、じゃあ一体なぜこんな事態になるのだろうかと気になった。

「じゃあ、一体どうしてこうなったの?」

「別のどこかの工場が本当に密輸をしていて、この工場に罪を被せたかったんだよ。最近、汽車の密輸が国内で問題になっているからね。自分達が見つかる前にこの工場のせいにして、逃げ切るつもりなんだよ。カニエル大臣は今、大臣としての結果を出すことに急いているから、たとえ無実だとしても検挙したいのだろうね。なんてやつなんだ……」

「なるほど……」

 アルは少し苦い顔をしていた。それに加えて工場長も辛い顔をしていた。アルは工場長のことに気づくと表情を変えて彼の顔をまっすぐ見た。

「閉鎖命令は私がなんとかします。だから、安心してください」

 アルの顔は慈愛に満ちていた。私はそれが頼もしく見えた。

「よろしくお願いします……」

 工場長はお辞儀をした。


 私たちはひとまずは城に戻ることにした。帰りの汽車に乗っていると車窓から街が見える。アルはその景色をずっと眺めていた。

「僕はさ、この国の人たちにはみんな平穏に暮らして欲しいと思っている。もちろん、さっきの工場長にも平穏に暮らして欲しい。だから、自分ができる限りのことはしてあげたい」

 アルは私の目を見た。アルは昔から良いことをしたいと願っていたことを私は思い出した。アルのためにも、工場長のためにもこの私に何かできることはないのだろうか。

「私にもできること、あるかな」

 自信がなくなる。アルは私の顔を見ると私の手を握った。彼の手が温かい。

「大丈夫、エリにもできることはあるさ。工場長のためにも僕らが動かなくちゃ」

 そう言う彼はとても頼もしかった。そう思うと私に何ができるのか見えてきた。

「ありがとう。何ができるかわかったよ。私もできることはする」

「そうこなくっちゃ」

 アルは微笑んだ。

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