王子の寝顔

 それからすぐに、空いていた城の部屋を一つ分けてもらって自室とし、そこに十数着のドレスと普段着、鏡台やテーブル、ベットなどの家具一式も揃えてもらった。

 生活するための準備が一通り終わった夜。アルは私の引っ越し祝いとしていつも以上のご馳走を用意してくれた。

「いろいろと用意してくれてありがとう」

「いいんだ、これくらい。ここで生活するにはこのくらいは必要だろうから」

「そうね」

「では、改めてよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 グラスを上に挙げる。私の新しい生活が始まるのだ、と思った。


「ねえ、そんなに飲んで大丈夫?」

 お祝いを始めてから一時間くらいが経った頃。アルが心配してくれた。なぜなら、私は勢い任せで上等な酒を三杯も飲んでしまったからだ。

「だ、大丈夫よ、なんのこれしき……」

 そこからの記憶が全くない。ただ、アルの優しくて温かい感触だけを覚えている。

 朝になると、私とアルは抱き合って私のベットの上で寝ていた。服は昨晩のままである。おそらくアルがベットまで運んでくれたのだろう。それから彼も力尽きて寝てしまったのだと理解した。これが夫婦になるということなのか。昔はとても可愛かったアルが今ではとてもカッコ良くなって、私もなんとなく大人というものになって。そう思うと、急に彼に対して今まで感じたことのない類の愛しさを感じた。今まで、ただの幼馴染にしか思えなかった彼が頼もしく見える。彼のかっこいい寝顔を見ていると、なんとなく彼の頭を撫でてみたくなった。

「王子がこんな状態で寝てたらみっともないよ。でも、かわいい」

 独り言を言ってみると、それからすぐに彼は起きた。


「昨日はエリが酔ってしまって大変だったのですよ」

 着替えて朝食を摂る彼がこう言った。

「ごめんなさい……」

「そう言われると、こっちこそ抱きついて寝ていてごめん。僕も酔っていたかもしれない……」

 お互い酔ってしまって、恥ずかしさ気持ちになる。

「おやおや、仲が良いようで」

 そう言ったのは、この城のメイド長のメリッサさんだ。

「メリッサさん!」

「おや、顔が赤いですよ」

にこにこしながら空のカップに紅茶を注いでくれる。彼女にこう言われて咄嗟に顔を赤くしたが、内心悪くないとも思っていた。アルの方を見ると彼の顔まで赤くなっていた。彼までこうだと尚更照れてしまう。

「でも、アルバート様は良い人を見つけましたね」

 メリッサさんが微笑んだ。

「ありがとう、メリッサ」

 アルは照れながら紅茶を飲んだ。こういうところまで可愛く思える。彼はイケメンであると同時にとても可愛いのだと今更気がついた。


「ところで、一ついいかな?」

 アルは私の目を見て新しい話を始めた。

「何?」

「手伝って欲しいことがあるんだ」

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