契約(?)結婚

「そうですよ! 六年ぶりくらいでしょうか?」

 私とアルはここ六年ほどは全く会っていなかった。なぜかというと私はその間学校に通っていたし、彼だってその頃から国の公務が入るようになったのでお互い忙しくなったからだった。だからなのか、顔を覚えていなかった。申し訳ない気持ちになる。

「本当にごめんなさい! まさかあなただったなんて」

 アルはとてもイケメンだ。それはもう国中の女の子たちからお手紙を貰う程のイケメンである。

「いいんだ。こちらだってエリが持ってた写真を見るまでは気づかなかった。本当にごめん」

 彼は立ち上がってお辞儀をした。こういう物腰の低いところが彼が国民から愛されている所以なのだと実感する。


「ところで、カニエル大臣から婚約破棄されたというのは本当なの?」

 ここで彼はおそらく今一番聞きたかったであろうことを聞いてきた。一気に私の気分が落ち込んでいく。

「そ、その通りよ。急に出ていけって言われて追い出されたわ。この状況だと実家には帰れないし、持ち出したお金も底をついたし、これからどうしようかなってところ」

「エリの家、厳しい、いや、ひどい家だもんね」

「そう、だから帰れない」

 私の家は私のことを政治の道具としか考えていなさそうだった。だから今回の婚約破棄で私は完全に家から自分の居場所を失ってしまった。本当にどうしたものか。街にパン屋でも開こうか。

「困っているの?」

 アルが聞いてきた。そのストレートな言葉に私は頷いた。

「そうね。今家にしろお金にしろ本当に困ってる。これを乗り切る手はあるのかしら……」

「なら、僕と契約結婚しませんか?」


 それは突然の言葉だった。少しの間固まる。待って、契約結婚ってどういうこと。なんらかの契約付きとはいえ、私と彼とで結婚。王子と結婚したら私は妃に?

「実は僕の方も少し困っていて……」

「と、と言うと」

「周りから早く結婚しろって急かされていてね。だから、エリをここに住まわせる代わりとして結婚して欲しい」

「家無しの私がここに住む対価としてあなたと結婚して欲しいと」

「そういうこと」

 どうする私。確かに家はない。今後も住まいや生活をしばらくの間一人でできる見込みもない。それに彼となら結婚したって問題ないような気がした。幼馴染なのだから変に気を使わなくて済む。本当にそれだけのことで結婚まで踏み込んで良いものか。迷っていても仕方がないような気がした。

「わかったわ。その提案、喜んでお引き受けいたします」

 私は軽やかにお辞儀をした。

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