汽車に乗って
「手伝って欲しいことって?」
彼は真剣な顔になる。そこにはいつかは一国の主人となる男の風格があった。どんな頼み事を頼まれるのか少しドキドキする。
「実は、公務をいくつか手伝って欲しい。まずは今度の公務で工場の視察をすることになっていてね。その場に同行して欲しいんだ」
考えていたよりも幾分か楽そうな頼み事だった。
「そんなことなら一緒に行きますよ。一緒にいれば良いのよね」
「そうそう、エリは今回が初めてだろうから居るだけで良いよ」
「わかったわ」
それから行き先の工場についての簡単な説明を受けると朝食の時間が終わった。アルはすぐに国王のいるお城へと向かった。この国の領内にはいくつかの城があって、王族たちがそれぞれの城に住んでいる。アルの城と国王(今では私にとってのお義父さま)の住む城は特に近かったので、簡単な用事でもすぐにお義父さまから呼び出されるとアルから聞いた。王子もなかなか大変なのだなと思う。これから私も忙しくはなるのだろうけど。
数日後、私の妃としての初仕事の日が来た。目的の工場まで通じる駅で工場が作ったという最新の汽車が到着するのをアルと待っていた。
「すごい工場ですよね。汽車を作れるなんて」
「そうだね。いまはまだ汽車を作れる工場も少ないからね。いつかは世界中に鉄道を敷いて簡単に移動できるようになって欲しいけど、まだまだ難しそうだ」
そうこう言っている間に汽笛が聞こえてきた。汽笛が聞こえた方向を見ると大きな煙を立てて汽車がこっちまで走ってきていた。
「まあ、あれが最新の汽車?」
「そうみたいだね。僕も初めて見たよ」
汽車が私たちの目の前で停車した。後ろには客車が何台も繋がれている。客車の方から一人の男性が降りてきた。
「アルバート王子、エリーナ妃、はじめまして。工場までご案内いたします。どうぞお乗りください」
そう言われて私たちは汽車に乗った。説明を聞くに工場まで時間が掛かるらしい。汽車が走り出すととても早い速度で走り出した。
「以前の汽車より速度も燃料の効率も大幅に向上したんです。乗り心地はどうですか?」
先ほどの男性が聞いてきた。私は汽車の詳しいことはあまりわからなかったので、
「良い乗り心地だと思いますよ」
とだけ返しておいた。
「それはよかった。どうぞ到着までごゆっくりお過ごしください」
しばらく走っていると段々と眠くなってきた。とても眠い。姿勢が真っ直ぐに保てなくなる。すると、汽車が曲がった時の勢いでアルの方に寄りかかってしまった。なんとか起きなくちゃとも思ったが、アルが起こしてくれそうな気配がないし、彼の肩が気持ちよかったのでその場でついつい眠ってしまった。
「起きて。着いたよ」
気がつけば私はしっかり彼の肩に寄りかかっていた。それから汽車は停車していた。
「うわ! ごめんなさい!」
私はどんどん恥ずかしくなっていく。初仕事で何ということを……
「良いんだ。むしろちょっぴり嬉しかった」
だが、彼の方は恥ずかしそうに喜んでいた。仕事中なのに、良いのだろうかとは思ったが彼はすぐに立ち上がって歩き出した。私も慌てて彼を追いかけた。
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