二
ぶうといって汽船がとまると、
停車場はすぐ知れた。切符もわけなく買った。乗り込んでみるとマッチ箱のような汽車だ。ごろごろと五分ばかり動いたと思ったら、もう降りなければならない。道理で切符が安いと思った。たった三銭である。それから車をやとって、中学校へ来たら、もう放課後でだれもいない。宿直はちょっと
なんだか二階の
道中をしたら茶代をやるものだと聞いていた。茶代をやらないと粗末に取り扱われると聞いていた。こんな、狭くて暗い部屋へ押し込めるのも茶代をやらないせいだろう。見すぼらしい
学校はきのう車で乗りつけたから、たいがいの見当はわかっている。四つ角を二、三度曲がったらすぐ門の前へ出た。門から玄関までは
教員が控え
そうこうするうちに喇叭が鳴った。教場の方が急にがやがやする。もう教員も控え所へそろいましたろうと言うから、校長について教員控え所へはいった。広い細長い部屋の周囲に机を並べてみんな腰をかけている。おれがはいったのを見て、みんな申し合わせたようにおれの顔を見た。見世物じゃあるまいし。それから申しつけられたとおり一人一人の前へ行って辞令を出して
挨拶をしたうちに教頭のなにがしというのがいた。これは文学士だそうだ。文学士といえば大学の卒業生だからえらい人なんだろう。妙に女のような優しい声を出す人だった。もっとも驚いたのは、この暑いのにフランネルのシャツを着ている。いくらか薄い地には相違なくっても暑いにはきまってる。文学士だけに御苦労千万ななりをしたもんだ。しかもそれが赤シャツだから人をばかにしている。あとから聞いたらこの男は年が年じゅう赤シャツを着るんだそうだ。妙な病気があったものだ。当人の説明では赤はからだに薬になるから、衛生のためにわざわざあつらえるんだそうだが、いらざる心配だ。そんならついでに着物も
挨拶がひととおりすんだら、校長がきょうはもう引き取ってもいい、もっとも授業上のことは数学の主任と打ち合わせをしておいて、明後日から課業を始めてくれと言った。数学の主任はだれかと聞いてみたら例の山嵐であった。いまいましい、こいつの下に働くのかおやおやと失望した。山嵐は「おい君どこに
それから学校の門を出て、すぐ宿へ帰ろうと思ったが、帰ったってしかたがないから、少し町を散歩してやろうと思って、むやみに足の向く方をあるき散らした。県庁も見た。古い前世紀の建築である。兵営も見た。麻布の連隊よりりっぱでない。大通りも見た。
「きのう着いた。つまらん所だ。十五畳の座敷に寝ている。宿屋へ茶代を五円やった。かみさんが頭を板の間へすりつけた。ゆうべは寝られなかった。清が笹飴を笹ごと食う夢を見た。来年の夏は帰る。今日学校へ行ってみんなにあだ名をつけてやった。校長は狸、教頭は赤シャツ。英語の教師はうらなり、数学は山嵐、画学はのだいこ。いまにいろいろなことをかいてやる。さようなら」
手紙をかいてしまったら、いい心持ちになって眠気がさしたから、最前のように座敷のまん中へのびのびと大の字に寝た。今度は夢も何も見ないでぐっすり寝た。この部屋かいと大きな声がするので目がさめたら、山嵐がはいって来た。最前は失敬、君の受持ちは……と人が起き上がるやいなや談判を開かれたので大いに
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