第14話 冒険者登録

 翌朝。


 俺が冒険者になる決意をしたことは、主に両親の口を通じて村中に知れ渡った。


 狭い村なので、噂が広まるのは早い。


 お昼頃になって、王都から衛兵が護送用の馬車と共に村へ到着すると、村の大人たちは俺も一緒に王都へ連れて行ってもらえるように取り計らってくれた。


 王都へ辿り着いたら冒険者組合ギルドへ登録し、それから冒険者の先輩であるハンザおじさんの家を尋ねて弟子入りを申し込むことになっている。


 出発の準備が整い御者席の隣に座ると、村の皆が見送りに来てくれた。


 生まれ故郷に別れを告げ、俺たちを乗せた馬車は街道を進んで行く。


 のどかな田園風景が延々と続くなか、ふと街道の反対側にある森へ視線を向けた。


「あれ?」


 木々の間に目を凝らすと、サラマンダーの姿が見えた。


 どこかにあるじが居るのかと思ったが、衛兵の話によれば低級な魔物は木々や獣等、人以外の魔力を使って地上に顕現する場合もあるそうだ。


 そうした魔物が時々、俺たちの馬車を襲うこともあったが、衛兵の手を借りずともマノンが簡単な魔法を唱えるだけで瞬殺できた。


 前世でやったゲームみたいに、こちらを襲ってきた魔物もしもべにできないだろうかと考えたが、衛兵の話によると魔物を従えられるのは儀式で召喚して契約したときのみだそうだ。


 そうして倒した魔物は、殆どが死体を欠片も残さず消滅したのだが、一度だけマノンの水魔法で倒されたサラマンダーが、何かを落としていった。


「ん、何だこれ」


 拾い上げてみると、どうやら爪らしい。


「お、運がいいな、兄ちゃん」


 衛兵の説明によると、魔物の身体はその大部分が魔力でできており、死ねば現世から消滅するのだが、なかには爪や牙等、魔力が強く籠もった身体の一部を残す物もいる。


 成人の儀式とは別に魔物を召喚する際、二体目の召喚は指輪の魔力だけでは足りないので、こういったものを触媒として使用するそうだ。


 無事、王都へ辿り着き通用門を潜ると、前世のゲームやラノベで見たようなファンタジーらしい街並みが広がっていた。


 冒険者組合ギルドの手前で下ろしてもらい、衛兵にお礼を言った後、建物の扉をくぐった。


 建物の一階は酒場になっていて、喧噪と共に美味しそうな酒と料理の匂いが漂っていた。


「いらっしゃいませ、冒険者の酒場へようこそ!」


 給仕の女性から声を掛けられたので冒険者に登録したい旨を伝えると、二階の受付へと案内された。


「いらっしゃいませ、冒険者組合ギルドへようこそ。本日は、どのような御用件でしょうか?」


「とうろくをしたいのですが」


「それでしたら、こちらの用紙に記入を御願いします」


 渡された用紙に名前、出身地、契約した魔物の種族名といった必要事項を(種族名ではサキュバスと、他の項目より少し大きめの字で)机に備え付けの羽筆ペンで書き込み、受付へと返した。


「それでは改めて冒険者組合ギルドへようこそ。まずは当組合の目的と仕組みを御説明致します」


 彼女は返却された用紙を確認しながら、説明を続けた。


「冒険者とは国、他の組合ギルド、個人等からの依頼を引き受け解決する者で、依頼内容は魔物退治、遺跡や迷宮の探索、要人の護衛、賞金首の捕獲と多岐に渡り、我々はその仲介を担う業者となります」


「依頼を達成した場合、依頼主からの報酬の一部を仲介料として組合ギルドへ納めてもらいます」


「また、依頼の途中で怪我、もしくは死亡しても当方は一切の責任を負いませんので予めご了承下さい」


「とはいえ、こちらも冒険者の死を望んでいるわけではありません」


「そこで、階級クラスという形で冒険者の身命を、ある程度は保護させてもらいます」


階級クラスとは白金プラチナゴールドシルバーカッパーアイアンの五つに冒険者を振り分け、上の階級クラス程、危険な依頼を受けられるように制限、調整を設ける仕組みです」


「登録したばかりの冒険者の階級は、契約した魔物の種族によって決まりますが、依頼を達成して実績を積めば、階級クラスを上げることができます」


「危険な依頼程、報酬も高くなるので是非、上の階級クラスを目指して頑張って下さい」


 ふふん、成る程。契約している魔物の種族によっては、上の階級クラスからのスタートか。


「あなたが契約している魔物は、そちらのサキュバスのみですね?」


「はい、そうです」


「それでは、テオ様は一番下の階級クラスであるアイアン級からになりますが、よろしいですか?」


 あ、あれ? おかしいな。さっき魔物の種類で最初の階級クラスが決まるって説明されたばかりなんだけど。

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