第13話 上京の勧め
村長が地面に吐瀉物を撒き散らしている間、村の大人たちは山賊の頭領に、
念の為、
「おお、ザーラ! 無事じゃったか、恐い思いをさせてしまったのう!」
抱きつかれた彼女は笑顔を貼り付けていたが、頬が引きつっているのがここからでもわかる。
恐らく、ゲロ臭いのを我慢しているのだろう。
我が儘一杯に育てられたザーラでも、村長である祖父には文句が言えないようだ。
これにはザーラの両親も、二人の側で苦笑いをしている。
他の親たちも我が子の無事を喜び、その後は何事もなく皆で村へと帰り着いた。
山賊たちは、王都から衛兵が村に到着するまでの間、納屋へ閉じ込めておくことが決まり、ようやく儀式は再開された。
俺より凄い魔物を呼びだしてみせると意気込んでいたザーラだが、召喚できたのは基本の四大精霊よりはマシとされるゴブリンで、
村の子どもたち全員の儀式が終わり家族で帰宅すると、その晩はいつもより少し豪勢な夕食となり、本来は食事の必要がないマノンも同じ席に着いて俺の成人を祝うことになった。
「いや、それにしても、まさかテオがサキュバスを呼び出すなんてな。驚いたよ」
「本当にね、この子が魔物を呼び出せるのか、それだけが心配だったけれど、よかったわ」
両親は、俺が儀式を済ませたのを喜んでいたが、ふと真剣な表情で話を切り出した。
「なあテオ、どうせなら、ハンザおじさんみたいに王都で冒険者にならないか?」
「そうね、サキュバスはオーガよりも強い魔物なんだし、ひょっとしたらハンザおじさんよりも活躍できるかもしれないわね」
「うーん、ぼうけんしゃかあ……」
そういえば、前世で従兄弟の中島も「うちの家系から頭のいい子が生まれた」と両親から大騒ぎされて、少し経済的に無理をしてまで私立の中学に入学させられていた。
不出来だと思っていた息子が強力な魔物を喚び出したので、うちの両親も子どもに期待をするようになったのだろう。
そりゃあ、俺だって前世でラノベを読んだり、ゲームをしたりして、ファンタジーの世界での冒険に憧れたことがある。
でも、ラノベやゲームと違って、ここは自分にとっての現実だ。
怪我をすれば痛いし、場合によっては死ぬこともある。
せっかく生まれ変わって人生をやり直せるんだから、次こそは平穏に生涯を終えたい。
だから父と母の提案を断った。
「そうか、実に残念だ。冒険者になれば、例えば迷宮を攻略して秘宝を探し出し、王家へ献上したり、凶悪なお尋ね者を捕らえて国へ引き渡したり、そうやって平時でも功績を立てれば、平民から貴族へ叙されることもある」
そこで一息区切って、
「そうなれば名家から縁談が舞い込んで綺麗な奥さんだって貰えるかもしれないし、お前に甲斐性があるなら妾だって何人も――」
「とうさん、かあさん、いってくるよ。おれのかつやくを、たのしみにまっててくれ」
「変わり身が早いな、おいっ!」
いやあ、やっぱファンタジーの世界に生まれたからには胸が躍るような冒険をしないとね。決してハーレムが欲しいからとか、そんな俗っぽい理由じゃないよ。本当だよ。
「でも、テオがいなくなると我が家は寂しくなるわね」
そう母は呟いたが、
「そうだ、今からでも頑張れば、テオの弟か妹ができるかも。二人きりなら、夜の生活も捗るし」
「止めてくれよ、そういうの……」
するとマノンは不思議そうに首を傾げ、
「頑張ればって、どうすればテオくんの弟や妹ができるんですか? それに、夜の生活って、何ですか?」
……。
はっ!
余りのショックに意識が飛んでしまった。
えっと、この子の種族はサキュバスでいいんだよな?
ふぞけてるようには見えないが……。
「ほ、ほらマノンちゃん。あの木にシュバシコウが止まっているでしょう?」
母が窓の外を指差した。
「あのシュバシコウが、夫婦に赤ん坊を運んでくれるのよ」
「そうなんですか? でも、頑張るっていうのは……」
「そ、それはね。夜、寝る前に二人で手を繋いだり、キスをすると仲のいい夫婦だってシュバシコウから認めてもらえて、それで子どもを授かるのよ」
「そ、そうだったんですか。シュバシコウさんに見てもらわないといけないなんて、大変なんですね」
マノンは母の話を信じたらしく、顔を真っ赤にしていた。
えーと、この世界ではコウノトリじゃなくてシュバシコウなのか。
っていうか、手を繋いだりキスをすれば子どもができると信じるって、どうなんだ。
その後、母はマノンに見つからないよう、こっそり俺に耳打ちした。
「いい? 男のなかには女性の姿をした
失礼だな。俺は王都へ向かい、一流の冒険者になるのだ。
サキュバスだからって、いやらしいことなんか、これぽっちしか期待してなかったんだからな。
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