第12話 救出

 村の裏手にある山の中、普段なら付近の獣ぐらいしか通らないであろう険しい道を、村の子どもたちは覚束ない足取りで歩いて行く。


 無論、本人たちの意思ではない。


 その前を行く、少年の姿をした魔物に操られているのだ。


「おい、ラキュラ! ガキ共を、もう少し早く歩かせられないのか!」


 先頭に立つ、濃い髭を生やした大男が自身のしもべに怒鳴りつける。


「無茶を言わないで下さい。まだ儀式を済ませる前の子どもばかりですし、催眠中は身体に力が入らないんですよ」


 意に沿わない返答に、男は軽く舌打ちをすると再び歩き出した。


 そんな男の機嫌を更に悪くする事態が起こる。


「うおおおぉっ! 我が愛しの孫娘を攫ったのは、お前かあっ!」


 突如として聞こえた叫び声に男が驚いて振り向くと、彼の頭上から少女の姿をした魔物に抱き抱えられた老人が、顔を赤く染め上げながら男へと迫っていた。


「ちょっと、村長! これから奇襲を仕掛ける予定だったのに、何で声を上げたんですか!」


「無理矢理、付いてきたあげく途中で力尽きて倒れたのをテオのしもべに運んでもらっておきながら、まだ足を引っ張るつもりですか!」


 マノンたちを後ろから追いかけていた村人たちは、空中に浮かぶ村長を見上げながら息を切らしつつも走る速度は緩めることなく大声で罵るという、とても疲れることをやってのけた。


「と、とにかく。まずは子どもたちの目を覚まします!」


"アウェイク”


 マノンの呪文が攫われた子どもたちの精神に響き渡ると、彼らのぼんやりとした意識が一気に覚醒した。


「あ、あれ、僕たち、何をやってたんだろう?」


「確か、鼠が出たって、大騒ぎになって……」


「ちっ!」


 催眠が解かれたことを悟ったラキュラは、再び村の子どもたちを傀儡にしようと、近くにいた少女の首筋へと飛び掛かる。


「させるかっ!」


"ウィンド”


 村民の一人がシルフの風魔法で、ラキュラの小柄な身体を吹き飛ばす。


「ぐっ!」


「もういいラキュラ! 二手に別れて逃げるぞ!」


 山賊のかしらは、しもべへ命令を下しながら林の中へと走り出す。


 指示をされたラキュラも、鼠へと姿を変えながら反対側の林の中へ飛び込もうとした。


「無駄です!」


"テンペスト”


 マノンの起こした竜巻は鼠の身体を巻き上げると、その反対側の林の中へと入り込み、かしらの身体も巻き上げて、地面へと叩きつけた。


「ぐっ!」


 村民たちは倒れた二人へ駆け寄ると、取り囲み武器を突き付けた。


「おとなしくしろ、抵抗するようなら殺す!」


「ちっ……しょうがねえな」


 こうして誘拐事件は無事に解決した。


「そ、空を飛んだのは初めてじゃが……き、気持ちが悪くなって……」


 なお、乗り物酔いをしたらしい村長が吐き終わるまで、彼らは下山を許されなかったという。

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