第11話 誘拐
「これは、一体どういうことじゃ!」
村長の叫び声が、広い召喚の間に木霊する。
誰も答えられるはずがなかった。
ここにいる全員、村長の命に従い山賊との戦いへ
「ああ、ワシがふがいないばっかりに! すまない、ザーラ。ワシの可愛い孫娘よ。後、ついでに村の子どもたち」
この人、正直過ぎやしないだろうか?
他の村民たちはどこかあきらめたような表情で、まずは捕らえた山賊たちから何か事情を知らないか聞き出すことにした。
「へえ、ガキがいなくなったって? そりゃ、大変だな」
この男だけではなく、連れてこられた山賊たちは皆、こちらを見下したような薄ら笑いを顔に浮かべていた。
明らかに何かを知っていそうな様子だったが、この調子では口を割りそうにない。
何としてでも子どもたちの居場所を聞き出そうと、村人たちが拷問の準備を始めたところ、マノンがおずおずと手を上げ、こんな提案をした。
「あの、私でよければ、話を聞き出しましょうか?」
というわけで、了承した村人たちはマノンの指示に従い、召喚の儀式のときと同じように部屋の窓を全て閉めて、明かりに蝋燭だけを灯した暗闇を用意した。
「おい、サキュバスが話を聞き出すってことは……」
「しっ、声が大きいって」
女たちは子どもの安否を祈りながら、男たちも子どもの無事を祈りつつ、何かの期待を込めながら、それぞれマノンを見つめていた。
マノンは懐から糸の付いた五円玉のようなものを取り出すと、それを振り子みたいに、ゆっくりと左右へ振って、山賊へ声を掛けた。
「あなたは段々、眠くなるー」
……催眠術、かな、あれは?
おいおい、あんなもので正直に答えるわけが……
"スリーピング”
呪文が頭に響いたと同時に、マノンと対峙していた山賊は糸が切れた人形のように首を倒して、焦点が合わない瞳や弛緩した口元など、明らかに眠そうな表情を見せた。
「子どもたちは、今どこにいますか?」
マノンの問いに、山賊は今までの対応が嘘のように答え始めた。
「計画通りに進んでいるなら、今頃は村の裏口を通って、お
「計画とは、何ですか?」
「俺たちが村を襲って大人たちを引き付けた後、お
子どもたちの無事と居場所がわかって、女性たちは少しだけ安堵をし、男たちは何故か非常にがっかりした様子を見せた。
とにかく、子どもたちの行方はわかったので、すぐに追いかけなくてはならない。
(村長の孫娘、ザーラの視点)
大人たちが山賊との戦いに向かった後、部屋に残された私たちの敵は不安と退屈だった。
「ねえ、ただ大人たちが戻ってくるのを待つのはなんだし、ここは自分たちで魔物を召喚してみない?」
そう、皆に呼びかけてみたのだが、
「駄目ですよ、ザーラお嬢様。神官の立ち会いがないと儀式は行えないのです」
ジークが険しい顔で咎めてくる。
「何でよ。村の戦力も増えるし、いいじゃない」
「魂を贄とした汚れし契約を結ぶような、不届き者もいるかもしれません。ですから、神官が見届けずに召喚した魔物は
まあ、勝手に喚び出して叱られても損だし、ここは黙って待っているしかないらしい。
「それにしても、あれは何だったんでしょう?」
ジークが怪訝そうに呟く。
「あれって?」
「あれですよ。テオが
「さあ、ただヤケクソになってただけで意味はないんじゃない?」
「そうでしょうか? だとしても、それなら何故、儀式は成功したのでしょう? 皆、この日に備えて召喚の呪文を一言一句漏らさず暗記してきたというのに」
それも、そうか。
思えば、あいつは昔から変な奴だった。
本当にイスラニア人かと思う程、滑舌が悪いくせに先生でも知らないような話をしたり、九九とかいう計算をして誰よりも早く算数の問題を解いたりして、非常に目障りな存在だった。
そんなことを、ぼんやり考えていると、部屋の隅から小さな悲鳴が上がった。
「痛っ!」
「どうした?」
「噛まれた!
騒いだ子が指差した方を見ると、確かに大きな灰色の
「おい、待て!」
「おい、足を見せてみろ」
他の子が、噛まれた子の足下を覗き込むが、
「おい、どうした」
何だか噛まれた子の様子が、おかしかった。
酔っ払いみたいにふらふらと、
「よし、捕まえたぞ!」
大きな灰色の
「おい、何するんだよ!」
抱きつかれた子が抗議の声を上げるが、その間に
「痛っ! ほら、お前が邪魔をするから逃げられたじゃないか!」
それから矢継ぎ早に汚い言葉で抱きついてきた子を罵っていたが、その声は段々と小さく、ゆっくりになり、やがて初めに噛みつかれた子と一緒に、
そこからは阿鼻叫喚の騒ぎだった。
異変から逃げ出そうと扉へ向かう子もいたが、回り込まれ、次々と彼等の仲間になっていく。
こうして、私を含めた部屋の全員が噛まれてしまうと、灰色の
その輪郭は徐々に膨らみだし、やがて光が止むと、そこには一人の少年の姿があった。
見た目の年は、私たちと同じくらいだろうか。漆黒の髪と瞳を持ちながら、象牙のように白い肌をしており、まるで貴族のように黒いタキシードやシルクハットで着飾っていた。
彼は犬歯を覗かせて微笑み、マントを翻しながら芝居がかった気障ったらしい口調で台詞を口にした。
「さあ、我が
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