第2話 重力の虹彩
瞳の勤務している眼科医院は、
院長も眼の専門家だけあって、美しい眼をしていた。
いわゆる「アーモンド・アイ」、端正で上品な、理想的な形の瞳…優雅な体躯のSweet spotに位置する「理知の座」が、聡明で高潔な人格をアーティスティックなまでに象徴していた。
目の健康のためには、ビタミンAやE,ロドプシン生成のためのブルーベリーのアントシアニン、ルティン、DHA、そうしたものの摂取、目を酷使しない生活習慣、そういうものが大事だ、それが院長の一家言で、美しい眼を維持するために研究や勉強を重ねていた。
院長は患者の瞳の光り具合や色合いを一瞥しただけで視力をコンマ01単位で割り出せるという特技があって、これは長年の診療経験から得られた余技らしかった。
眼球の角膜の紋様で生体認証できるシステムがあるが、虹彩院長も、瞳の中の角膜や虹彩を覗き込み、微細に観察するという習慣と訓練を長年繰り返してきた結果、一種のESPが身について、霊感のひらめきというか右脳の神秘的な作用?でこういう超越的なrealizeが可能になったのだろう。のみならず精密検査を経なくても、この雑誌にもたびたび取り上げられる名医は、one glance でほぼ8割の眼病の病態や症状を認識、診断できた。
巷間では虹彩院長のことを「ゴッド・アイ」と呼んで、その宝珠のように美しいばかりか極めて有能な、神業のごとくに鋭敏な認識能力を誇る「千里眼」を称賛しているのだった…
… …
<続く>
掌編小説・『ひとみ』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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