絶望文明~潜入した4人~

 アルファ1はボロボロになったマンションの一階を不審に思った。そこには白衣を着た男性がエントランスで倒れていた。服の上からは全身にびっしりと赤い表示がマスクにされている。彼はマスクをとって確認する。首から下がっているのは……”ヘブン”英語表記で書かれた、独特なロゴと持ち主であろう男性の写真があった。

「31班、至急ポイント9の1の11にこい、最優先だ」

「アルファ1、どうしたんです?」

 4は不思議そうに聞いてくる。しかし彼も何かを悟っているかのような、覚悟を決めた声色をしていた。

「ここに来た本当の任務を果たす。おそらくこの地下に細菌兵器研究機関の”ヘブン”がある。2と3を呼べ」

「わかりました。こちらアルファ4、任務変更、変更した件は直接伝える。処理班と一緒に当該地点に合流せよ」

 10分もしないうちに処理班とノアの箱舟全員が集まった。

「これからノアの箱舟は部隊名を”天使の落とし首”に変更される。以降ノアの箱舟は31班が任務中は名乗る。処理班は新たに28班が向かっている。天使の落とし首に課された任務は細菌兵器研究機関、ヘブンの発見及び破壊だ。危険を伴うためノアの箱舟はこのエントランスにて待機、1名は即時離脱できるように輸送車を回しておけ。俺たちは今からエンジェル1、2、3、4。となる。以後はこの呼称で連絡を取るように細菌兵器をサンプルとして回収し、危険な細菌も収集し、ここを爆破する。中にいる者はすべて感染者とみなして即刻射殺だ。行動開始!」

 除菌されたカードキーをもって一階から階段を下る。隠し扉を破壊してその中に入ると白い壁に”heaven”の文字がある。

「ここで間違いなさそうだな」

 エンジェル1はそう言ってカードキーをタッチする。

「ID239、サン・ヨーリン様、おかえりなさいませ」

 扉が開き、マジックミラーになっていた向こうが見える。あまりの酷さに1以外は思わず王としそうになった。白い壁には赤い血痕と、そこに侵食する緑の細菌があり、地面には科学者”だったもの”が落ちている。また脳や胃などといったものが空間に浮いており、そのグロテスクさは有名ホラーゲームをはるかに超越していた。

「これがやつらの末路だ。俺たちはこうならないようにするだけだ。行くぞ」

 エンジェル1を先頭に施設の中に侵入する。息苦しいだけなのでマスクは外し、別途用意されていた白い本物のガスマスクに変更する。このマスクは目こそ覆わないものの、口と鼻から入る空気のフィルター率が99%を誇る優れモノだ。真っ白さが天使の羽にも見える。

「1、ほんとにここなのはわかるが、さすがに危険すぎやしないか」

 3があまりの光景に誰かの宙に浮いた脳みそを手でどかしながら言う。しかし、1は明快に反論をする。

「今ここに来れるのは我々天使の落とし首だけだった。それだけじゃない、俺たちは射撃訓練において上位4人で構成されている。もし、ここに生き残りがいて攻撃を仕掛けてきたら……あとはわかるだろ」

 3は押し黙る。数分廊下を歩いて実験室を見つける。1はハンドサインで、

「2、3はこの先の偵察、俺と4はこの中の探索」

 2と3は頷いてハンドガンを構えながら進んでいく。1と4も中に進んだ。中の研究者で会ったであろう死体は完全に細菌に侵されている。全身真緑になっている。そして棚にはいろいろな色の細菌兵器のサンプルが保管されていた。

「よし、当たりだな。全部回収するぞ」

 持ち込んだキャリーバックに慎重にひとつずつ入れていく。赤、青、黄色と色とりどりなサンプルを回収する。

『こちらエンジェル2、奥の所長室に到達。ここが一番奥だ。所長は椅子でくたばってやがる。一応所長のカードキーは持ち帰るぜ』

 実験室を出たところで奥から2と3が戻ってくる。手には起爆装置を持っている。

「こちらのダメージは?」

「ゼロだ。こんなところささと出ようぜ、鼻が馬鹿になっちまう」

 3はうんざりしたような声で言う。

「同感だな、各自爆薬を仕掛けて撤収」

 数分後、この街で一番高い高層ビルが大爆発した。まず地下と1階が激しく真っ赤な炎に包まれる。地下の爆薬はガソリンをまき散らしそれを着火したのだ。ガソリンというが市販のガソリンではない。大鷲保有の高濃度ガソリンだ。市販のより10~200倍の火力を持つ。次に2階から54回までの部屋が一斉に爆発する。これはノアの箱舟の12人が仕掛けた通常爆薬だ。軍隊などの規模で言うとC4爆弾に火力が近い。ビルは轟音とともに崩れ去る。その光景を見る天使の落とし首たちは自分たちの成し遂げたことに、現状は満足するだろう。しかし、これからのことを考えるとこの爆破は始まりに過ぎなかった。

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文明シリーズ 小雨(こあめ、小飴) @coame_syousetu

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