第6話 手紙

 ここがメアリーが最後にいた部屋。


 窓と机しかない、こんなにも寂しい部屋にいたのね。


 レイラは景色を観ろって言ったけど、打ち付ける雨で窓を開けないと分からないじゃない


 ギィィ


 窓も建付けが悪くて開かないし、力を入れないとダメそうね


 せーの! バタッ 


 思いっきり雨は入ってくるわ、風でカーテンはバサバサ言う……


 何処から落ちて来たのかしら? 

 床に転がる紙を拾い開けてみた。





『この手紙がどうか愛しいマリアディーネ様のお手に渡るように願いを込めて綴ります。


 マリアディーネ様、感染症、そして流行り病の為に、最後の挨拶さえもままらない婆やをお許し下さい。

 そして婆やは天国とやらに、すでに来ているのかも知れません。こんなにも美しい景色が観られるはずないですから。

 戦争前に戻ってきた気分です。瓦礫で埋もれた空き地に、突然色とりどりの花が咲いてらっしゃいます。マリアディーネ様にも見せたいですが、天国へ来るのはずっとずっと先でしょうから、それまでは婆やが独り占めさせて貰います。


 愛しいマリアディーネ様。婆やはマリアディーネ様が花や小鳥を愛してるのを知っております。

 婆やはマリアディーネ様が、不安になると爪を噛む癖を知っております。

 婆やはマリアディーネ様が雷が怖い。と、一人ベッドの中で丸まって眠られるのを知っております。

 婆やは……勘違いされやすく、傷付きやすく繊細な……誰よりも弱い……マリアディーネ様を知っております。

 あと、数ヶ月で寄宿学校に通われるマリアディーネ様が、友だちが出来るか不安になってるのを婆やは知っております。


 大丈夫です。婆やがいなくなろうと安心なさって下さい。

 お優しく聡明であられるマリアディーネ様です、ご自分のお気持ちを素直にお伝えください。

 婆やからお友達が出来る魔法の言葉を授けます。


『ありがとう』


 地位や名誉があるお方は、なかなか口には出しませんが、言う方も言われる方も嬉しくなる魔法の言葉です。

 マリアディーネ様には地位や名誉に振り回されず、素直なお気持ちでいて欲しいのです。


 最後に一生に一度だけの婆やの……我儘を言わせて下さい。

 

 一番近くで大きくなっていくマリアを見られてメアリーは幸せでした。

 もっともっと見ていたかった。もっともっとマリアと過ごしたかったわ。

 マリアの幸せを……マリアをいつまでも見守っております。


  一緒にいてくれてありがとう。

  とても安らかな時間をありがとう。

  可愛い可愛い私の愛しいマリア。

  


            あなたのメアリーより』



 なによこれ……手は震えるし、せっかく晴れたのに


「眼の前がボヤケて……景色なんて全然……観れないじゃないの……」



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