第4話 4.5日くらいじゃないかしら

 翌日、約束通りにマリアディーネを迎に行くと、レイラは馬車を病院の裏手で止めた。


「マリアディーネ様。降りてください」


 マリアディーネが馬車を降り、レイラとリアも後へ続く。


「メアリーの……私がいつも祈っていた場所じゃない」

「そうですが、向きは逆ですよ」

「逆って、地雷が埋まってる空き地じゃない」

「そちらで良いのです。リア」


 レイラに呼ばれたリアは御者から布袋を受け取った。

 そのまま手を突っ込んで抜き出し、レイラへと手渡されたのは土団子だった。


「まさか、これを投げ込むって言うの? 」

「もちろんです、お一つどうぞ。乾燥させてますから、お手も汚れませんよ」

「投げ込むなんて、やったことないし、はしたないわ」

「そうですよね。塀が高いですから、マリアディーネ様の細腕だと届かないでしょうね。私の浅薄さをお許しください」


 その言葉を聞くなりマリアディーネはレイラの持っていた土団子を掴み取った。


「貴女も変わらないじゃない。見てなさい、こんなの余裕だわ」


 マリアディーネが投げ込んだ土団子は見事に塀を越えた。


「お上手です。マリアディーネ様」

「待って、地雷が作動するとかないわよね!? 」

「こんな軽いのに反応するほど、精密な地雷なんてないですよ」

「そ それなら良いわ」


 安堵の表情を浮かべるマリアディーネだったが


「グルっと一周しますから、急ぎましょう。で、ないと日が暮れちゃいますよ」


 レイラの言葉に引きつった笑みを浮かべた





「これで、終わりです」


 リアが手に付いた土を払うように手を叩いた。

 数多くの土団子を投げたことで、マリアディーネもレイラも後半は腕が上がらなくなり、レイラに至っては代わりにリアが投げ込んだ。


「貴方の使用人。細いのにタフね」

「常日頃から鍛えてますから。ね、リア」


 息を切らしながら言うマリアディーネにレイラは答えるとリアに目を向けた。


「ハイ。いつでもレイラ様を守れるように」

「それは、良いことね」

「マリアディーネ様こそ、凄い頑張ってらっしゃいましたね」

「……別に」


 何処か寂し気に呟くマリアディーネ。


「もうそろそろ帰りましょうかマリアディーネ様。お屋敷までお送り致します」

「私は良いわ。貴女たちだけで帰りなさい」

「ですが……」

「少しお祈りしていくわ。この距離なら歩いて帰れるし、人通りも多いから心配しなくて良いわよ」


 去っていくマリアディーネの言葉に、それ以上は言えなくなったレイラはリアに見張るように伝えた。


「私は絵画の習い事があるから、リア頼んだわよ」

「レイラ様の仰せのままに」

「マリアディーネ様が無事に戻られたら、リアも帰ってきなさい」




 ※※※※※※※※※※※※※


 トントントンとノックがしたかと思うとリアが入ってきた。


「ただいま戻りました」

「遅かったわね」

「マリアディーネ様はずっとお祈りをしてまして、結局はメディロナ家の者が迎えに来られました」

「そう。よほどメアリーさんが大切なのでしょうね。ご苦労さま、リアも休んで良いわよ」


 ドアの前で固まったまま、なかなか帰ろうとしないリア。


「いつまで残ってるのよ」

「あの……ご褒美が……」

「ご褒美? 」

「忘れてるわけじゃないですよね? レイラ様の髪を撫でる、しかもハグ付きです」


 興奮したのか早口で言うリアに少し気圧されたレイラは、リアから視線を外した


「今日は無理。クタクタだもん、また今度ね」

「うぅ。そんなぁ、リアはその為だけに頑張ったんですよ」

「不純な動機以外でも頑張りなさいよ。それにまだ終わってないわ」


 いつもの調子が出て来たレイラはリアに詰め寄った。


「この件が終わったら。って、言ったじゃない」

「いつ終わるのですかぁ? 」


 少し涙ぐみながらリアは答える


「さぁ。そんな遠くないわよ、4.5日くらいじゃないかしら」 

「絶望的に遠いです! 」


 リアが言うと同時にドアを開けては出ていった。

 バタンと勢いよく閉まるドアを見つめるレイラ。


「疲れてるのはホントだし、汗や陽に浴びたせいで、髪もグシャグシャなのが嫌なのよ」


 レイラの独り言だけが虚しく部屋に残った。

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