第3話 お団子を作りましょう
「レイラ様、ただいま戻りました」
両手いっぱいに紙袋を抱えるリアが部屋へと入ってくる。
「ご苦労さま。私の方も準備は整ったわ」
「準備ですか? 」
「えぇ。あとはマリアディーネ様をご招待したいのだけれど」
「お屋敷にでしょうか? 」
「正確には、『庭園』にかしら」
怪訝そうに窓から庭に目をやるリア。
「婆やさんの事で伝えたい。とでも言えば来るかしら? 」
「よほどメアリーさんの事を気に掛けてらっしゃいましたからね」
「決まりね。リア、明日にでもマリアディーネ様を庭園にご招待して来なさい」
庭を見ていたリアは慌てて振り向いた。
「リアがですが? 」
「そうよ。なにか不満でも? 」
「失礼ないように正式に招待された方が良いのではないでしょうか? 」
「それで来るなら苦労しないわ」
「マリアディーネ様に会うのも怖いのですが」
言い淀むリアを真っ直ぐにレイラは見つめた。
リアは少しだけムスッと頬を膨らますと『ご褒美にハグも付けて貰いますからね』とぶっきらぼうに伝えた。
リアの態度に見かねたレイラは少しだけため息を吐いた。
「それで良いわ。明日、頼んだわよ」
先ほどと違って、とてもにこやかな笑顔とともに「レイラ様の仰せのままに」と返ってきた。
※※※※※※※※※※※※※
ヴィッテルスバッハ家の庭は、ガーデニングが好きな主人、ヴィッテルスバッハ卿によって、手入れが行き届いていた。
春夏秋冬で花や木々を愛でながら、ティーパーティーが出来るよう、天蓋付きのガーデンテーブルが庭園の真ん中に備わっている。
「ここまで連れてきて何がしたい訳? ただのティーパーティーじゃないでしょうね」
ガーデンテーブルで向かい合うように座るマリアディーネとレイラ。
「そちらでも宜しければ、今からでもご準備致しますよ」
社交用の万人を虜にさせる笑顔をレイラはマリアディーネに向けた。
「貴方とするつもりはないわ。メアリーの事だって言われたから、来たのよ」
「もちろんです。準備を」
レイラが手をパンと叩くとリアが表れ、持っていた紙袋を逆さまにした。
地面には大量の土と種がばら撒かれる。
「なによこれ? 」
「マリアディーネ様。お団子を作りましょう」
「はっ? するわけないでしょ。手も服も汚れるわ」
マリアディーネの言葉を聞いてるのか聞いてないのか、レイラは椅子から立ち上がると、しゃがみ込んだ。
「幼少の頃にしませんでしたか? 」
そう言いながらリアと一緒に土を手に取り、手のひらで叩いて平らにしていく
「成り上がりは土いじりがお似合いでしょうけど、伯爵令嬢よ。したことないわ」
「やってみると、意外と楽しいですよ」
今度は種を3.4粒手にとって土に混ぜ込んでは団子状に丸めた。
「この為に私を呼んだわけ? 無礼にも程がある」
「後で何回でも謝りますし、手がお汚れになるのが嫌なら団子にするのは私とリアでしますから、マリアディーネ様は、この種だけでも混ぜ込んでください」
「…………本当にメアリーの為なんでしょうね」
「もちろんです」
少し思案するとマリアディーネもしゃがみ込み土を手に取った。
「マリアディーネ様。見ててください、こうするのですよ」
見様見真似でマリアディーネは土団子を作っていく。
「どうですか? 土の匂いって心が落ち着きませんか?」
「落ち着く訳ないでしょ。早く終わらせたいからやってるだけよ」
手慣れて来たのか黙々と土団子を作るマリアディーネを見て、レイラとリアは顔を見合わせた。
どれくらい経ったのだろうか、土も種もなくなり地面には大量の土団子が並べられていた。
「やっと終わりよね? 一生分の土を触った気がするわ」
「マリアディーネ様。まだ、半分です」
「どういうことよ? 」
「明日は、この土団子を投げます」
「だから、どういうことよ?? 」
「明日になれば分かりますから、昼過ぎにお迎に上がりますね」
勝手に約束を取り付けるレイラに困惑するマリアディーネ。
「押しが強いから成り上がれるのかしら」
「成り上がったのは、私ではなくお父様ですが」
少しずつマリアディーネの表情が柔らかくなっていくのをリアとレイラは感じた。
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