第2話 私に土を下さいな

 リアが何か言おうとするのをレイラは手で制し囁いた


(本当の事だから気にしないの)


 まだ何か言いたそうなリアに変わってレイラが口を開く


「こちらの病院に何か御用ですか? 」

「貴女には関係ないわ」

「お父様の寄付金で成り立ってる病院ですから、何かしらお役に立てるかも知れません」


 フンッと鼻で笑うとマリアディーネは二人に近付き、病院の一番高い端の部屋を指差した。



「あそこの部屋からの景色は最悪でしょうね。瓦礫に埋もれた空き地しか見えないもの」

「それは、病院には関係ない事かと思いますが」

「うるさい。あんな景色じゃ治るものも治らないわ。私腹を肥やしてるんでしょ。お金で何とかしなさいよ」

「あのお部屋には、どなたがいらっしゃるのですか? 」



 マリアディーネは『どうせ調べたら分かるでしょうけど』と言うと二人に話し始めた。


「私が産まれた時から付き従ってる婆やのメアリーがいるのよ」

「では、婆や様がご病気に」

「そうよ。感染症の流行り病だから直接会うことも出来ないわ」

「……そうでしたか」

「あの空き地も地雷に瓦礫ではなく、昔は花が咲きほこってたみたいじゃない」

「それは、初めてお伺いしました」

「そう。つまらない時間を過ごしてしまったじゃない、帰るわ」


 踵を返すマリアディーネの後ろ姿を二人は見つめた。


「レイラ様。婆やさんの事はお気の毒だと思いますが、空き地は関係ないじゃないですか」

「そうね……マリアディーネ様の言いたい事は分かるけど」

「やはり噂は本当でしたね」

「噂? 」

「はい。メディロナ家にも親しいメイドがおりますが『マリアディーネ様はワガママで自分勝手』と聞いております」

「そうなのね。それよりも瓦礫に空き地……」



 考え込むレイラを覗き込むリア。


「レイラ様? 先生の所に急ぎましょう。また課題を出されてしまいますよ」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※




 翌朝、リアがいつものようにレイラの部屋へと入っていく


「おはようございますレイラ様。雨季前の貴重なお天気ですよ」

「おはようリア。朝から元気ね」


 レイラの部屋に入るなりリアは窓を開け放った。


「ほら、見てくださいレイラ様。風に揺られて気持ち良さそうにお花も揺れてますよ」


 レイラが窓に近付くと風でなびく髪を片手で抑える。


「あら? あんな所に花なんて咲いてたかしら?? 」

「どちらですか? 」


 レイラが視線を向ける先には雑木に白い花が咲いていた。


「確かに見た事がないですね。ちょうど庭師の方もいらっしゃいますし聞いてみましょうか? 」


 リアが庭師に聞いて戻って来ると、目を輝かせながら話始めた。


「『鳥が運んで来た種から育った花じゃないか』との事ですよ」

「だから、あんな人の手が入らなそうなとこで咲いていたのね」

「凄いですね。自然の神秘と言いますか自然界の摂理と言いますか」

「神秘なのか、摂理なのかどっちなの……」


 突然黙り込むレイラを不思議に思いリアはレイラの前に手をかざした。


「どうしましたかレイラ様? 」

「リア。今から花屋に行ってちょうだい」

「花屋ですか? 」


 レイラは紙に筆を走らすとリアに手渡した。


「これをあるだけ買って来なさい。街中の花屋全部からよ」

「ちょ、レイラ様! 街中にいくつ花屋があると思ってるのですか!? 」

「さぁ。とにかく今日中に、回れるだけ回って集めてきなさい」

「リアは午後からお休み頂いて」

「終わったら、ご褒美に好きなだけ髪を撫でさせて上げるわ」


 キランとリアの目が輝くと『レイラ様の仰せのままに』の声とともに駆け足で部屋を出ていった。




「私腹を肥やしたお金の使い方を、伯爵令嬢に教えて差し上げるわ」


 フフフ。とレイラの笑い声が大きくなっていったところでドアが開いた。



「いやぁ、忘れ物しちゃいま……」

「な なによ? 何か言いなさいよ」


 ニヤニヤと意味ありげに微笑むリア。


「いえ、レイラ様が楽しそうで何よりです」

「そ そう。で、忘れ物は」

「課題の刺繍入れるためのハンカチを買うお金です」

「そんなの『ヴィッテルスバッハ』の名前で付けときなさいよ。一緒に払ってもらうから」

「ダメです。リア個人で買うのですから」

「そう。なら好きにしなさい」



 リアが再度出ていくとレイラは背伸びをし、窓から近くにいた庭師を呼び止めた。



「庭師さん、庭師さん。私に土を下さいな」

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