第2話  対戦

あとの二人も気持ちのいい人達だったので名を名乗り始めた。

「そでおかです」「すみでです」「ユウキです」  ユウキと言うのは発音を変えると名字とも名前ともとれる。

「そ~なんですか、すみでさんに、そでおかさん、私60年生きてきて初めて聞いた名前です、どんな字を書かれるんですか?」と浅田氏が聞いてきた。 袖岡、墨出、と二人が説明し終わると卓のボタンが押された。

闘牌開始である。近頃は便利になって、卓に座りながら携帯の充電が出来るようになっている。電気のない部屋に住んでいるユウキにとっては、有り難い設備だった。東南戦のアリアリルール1000円、2000円のウマがついて、ハコテン5000円の半荘勝負。55000点終了、役満祝儀は自摸れば2000円オール、振り込めば3000円の一人払い。あと四風連打続行、国士無双の暗槓当れず、赤牌がそれぞれ五に一個ずつ入っており、正規のドラは7個からスタートする。赤牌一つに付き500円のご祝儀が付いており、3個持って自摸和了りすれば、4500円の収入に成るのである。半荘一回で約40分、東場で終わるのはまれで、オーラスまで行くのがほとんどだ。40分かけて約5000円の金銭を取り合う割に、一局5分程度で4500円程の収入になって、そっちの方が大きいと思うのがこの麻雀の面白いところで、その和了こそ自体は、長くやっていれば全員に巡ってくる事が多く、勝負の優劣にはあまり影響しない。一晩くらいなら偏ることもあるが、一月単位で見ると比重をおくものでもない。リーチ一発、裏ドラにも500円の祝儀がつくのも、ツキを分散させる意図が伺える。店側としては、一人の大負けを防ぎたいというのが希望らしい。一人負になって、その人物が麻雀から離れられるのを嫌うのである。東一局ユウキは起家からのスタート、配牌は良くも悪くもなく、他の3人が遅ければ、和了れるかなといったところか。昨今スピーデイーになり、配牌も自動的に出てくるようになっており、ドラも最初っから裏返っていて、いわゆる指運といったものの要素が排除されつつある。ユウキは7巡目に間八万で聴牌しており、両面になればリーチをと思っていたが、北家の墨出氏が自摸切りリーチ。萬子が高そうな捨て牌で、ドラも五万。そのリーチを見た西家の袖岡氏がまたもリーチ。なにやらピンズ一色手のよう。南家の浅田氏は安牌の手出し、ユウキの積もってきたのは四万だった。萬子はドラ色もあって危険な感じにも見えた。九索の対子落しを始めて一歩後退、西家袖岡氏の持ってきたのは一萬だった。その牌が場に放たれるのを見た墨出氏が、静かに牌を倒した。リーチ一発メンホン一通、東、裏ドラに北が寝ており、子の 24000点、これで袖岡氏が一挙に0点になってしまった。0点は続行され東2局へ。ここでは特別ルールがあり0点でもリーチがかけられる。その局を和了きるか、聴牌料でマイナスを補えれば問題なしというルール。東2局、袖岡氏が食い仕掛けでタンヤオドラ1を、赤牌一個混じりの2000点で和了った。袖岡氏にちょっと生気が戻ったので試しに聞いてみた。

「袖岡さん、さっきはどんな手だったんですか?」「3、6、9ピンのメンホンで、9ピンで一気通貫だったよ、聴牌速リーチだったけどね」すると墨出氏が

「僕は辺七万が入って2順廻したよ」と呟いた。

“みんな東一局からエグい手をつくっていやがる“ユウキはあらためて油断禁物と思うのだった。あの時リーチしていてば今の点数も、殆ど無くなっていただろう。

、東3局、4局とそれぞれ流局、南一局ユウキの親。ドラの一索が4枚配牌で入っていた。親の異変は結構気づかれるもので、派手な捨て牌はしたくなかった。北や西を捨てたあと、静かに一索を捨てた。子方は少し目を見張ったが、静かに場は流れていき、東の役をつけて墨出氏から和了った。続く南一局一本場、袖岡氏が浅田氏からタンヤオドラ2を和了、 南2局浅田氏の親。5巡目に速いリーチが入り一発で自摸られた。北を。567の三色で、裏ドラに西が寝ており、親の8000オール。袖岡氏がドボン。このあがりには赤牌の五筒が入っていて、一発と併せて2500円のご祝儀のおまけ付き。序盤の祝儀も入れると、この半荘だけで5000円超のマイナスか。墨出氏は郊外らしく、会社帰りにいつも寄るが帰りも早い。ナナさんんの卓でも3人抜けるので、こっちの卓に移動してきた。ふと顔をあげると、あのロレックスの彼女はもう居なくなっていた。

”相変わらず早いや“

ユウキはそんなことを思いながら次の半荘に備え、点棒を揃えるのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る