第40話 人の可能性を見出す為の世界

 翡翠の髪の男の言葉に声を失っていた。


 だが、大厄災の言葉として、災厄の復活は正しい。

 それを阻止するために、神ジョブスは力を与えてくれたのだ。

 そう、教わったのだ。


「取りあえずさ。ちゃんと使命を達成出来たらご褒美をあげる。防衛有機体ガーディアン一号。君らが適当につけた名前だと、ゼルベダグだっけ。マジで適当だな。いや一号君よりはマシか。柱を守りし、ガーディアンでもカッコよい気がするけど、いちいち個体名つけてないし。」

「待ってくれ!ツッチー!それはやらないとダメなのか⁉」

「ツッチーはそんなことする子じゃないじゃん!」


 幼馴染設定の二人の渾身の演技。

 ただ、彼らの顔は歪んでいる。

 とはいえ、カヅチにとって関係ないわけで。

 彼が中央の状態を確認出来るのは管理者として当たり前だが、果実の木に触れたことで分かった。

 なんと、シオリは人間にも拘らず、あの中で生きている。

 だから、急ぐ必要はちゃんとある。


「でも、せっかくだから答え合わせをしておこう。どこで変わってしまったのか、……三百年前はちゃんと。いや、そのすぐ後にでも変わってしまったのかな。まず、おかしいと思わなかったのか?ここの祠では今までと違うことが起きた筈だ。俺とシオリが生きていたこと以外。」


 そう。

 彼女たちなら知っている筈だ。


「……あれか?ここだけ妙に簡単なトラップだったってとこか?」

「その通り。ラルフェン正解。あれは俺が制御端末に触れたから。不具合が起きた時用にそう設定されている。んで、トラップも正解。この柱の周りにも五つの祠があり、それぞれにトラップが仕掛けられている。あれは警告って意味だったんだけど、どこかで教えが変わってしまったのか。聖典が書き換えられたのか。」

「それにしては酷い仕組みですね。人を差し出さないとならないなんて。」

「……いや。それはしなくても良かったと先も言った筈だけど。システム自体を壊されないように、色々と試行錯誤した結果だよ。」

「厄災が勝手にルールを決めるな!」


 どこかでそうなってしまったらしい。

 いや、忘れなければならなかったのかもしれない。

 忘れなければ、そう決めた存在が耐えられないだろうから。


「試行錯誤をしたのはお前たちの祖先だよ。俺に言われても困る。……って、もう行くぞ。時間ないからな。」


 その瞬間、まばゆい光と共に双頭の竜が姿を現した。

 そして、その化け物、防衛有機体ガーディアン一号君はカヅチを見て、動きを止めた。

 更に彼は言う。


「システムの一部だから、実は同じくシステムである俺には人間にどう映っているのか分からないんだ。後はいつものように頼むよ。こいつが暴れてくれてもいいんだけど、それだと人間が死に過ぎるだろ?」


 カヅチはシステムの中枢でありながら、三百年のスリープ状態にあった。

 とはいえ、スリープ状態。

 駐在システムは起動しており、彼は本来の役目にしか目が行かなかったという話。


 そして、アメリア達が戦っている間にも彼は説明を止めない。

 いや、必要のない説明かもしれないが、目覚めたら話すとシステム上決まっている。


「厄災には意味があった。ここに住む前に彼らが決めた事。人間は本質的な意味で進化が必要だった。システムを利用したジョブではなく、根源の進化。そうでなければ、生存計画の意味がない。そうでなければ、天鳥舟に何かが起きた時に生きていけない。……それにこういう存在がいなければ、すぐに人間同士で争ってしまうだろ。」

「へぇ。俺達が国同士で喧嘩しないように、悪者を用意してくれてたってか?」

「悪の元凶が言うことか!」


 ごもっとも。

 そしてそれを決めた一族は間違いなく責められるだろう。

 だから、この決定は封印された。

 人間が真の意味で進化した時に開示することが許されている機密事項。

 今のカヅチには言えない。


 ——ただ、こんなことは出来る。


「お見事。それじゃあ、ご褒美をあげようか。……勿論、これが褒美になるかは、お前達次第だけど。」

「偉そうに!お前が死ねば全部が丸くおさ…………」


 アメリアの肩が跳ねた。

 いや、アメリア隊全員か。


「システムと言ったろ。ちゃんとデータは取得済み。だからその時の構成はそのままだから、再構築も出来る。俺の体のように。これをどう取るかは君次第だけどね。」


 そう。

 アメリアは声を失っていた。


「あ、あれ?俺は一体。確か、俺は死ん……」

「兄さん‼」


 そして、駆け寄るアメリアとその一行。

 その様子をガチロとマイネも嬉しそうに見守っている。


 だが、それで満足なのか。

 間違いなく死んで、そのコピーを作っただけ。


 それに。


「流石にあの施設で死んだ者以外は無理だけど、この調子で残りの五つも頼むよ。流石に俺自身がガーディアンを倒すのは気が引ける。無論、倒さなければ厄災どころではなく、人間が死ぬことになるんだけど……」

「やる。私はやるわ。兄さんが帰ってきた!……それだけで私は」

「それだけ……って、アメリアさん!」

「そうっすよ。こいつは大厄災で‼それにそれだけでいいって!他にもいっぱい死んだんすよ?」


 あれを生き返ったとは呼べない。

 しかも、この後に待っているのは、本当の意味での厄災。


「おい。アメリア。これはどういうことだ?俺は……」

「兄さんはいいの。これは私とイツノオハバリノタケミカヅチ様との約束だから。」

「アメリア!確かに嬉しいけど、大厄災に様付けって……」


 だが、その前に揉め始めてしまう彼ら、彼女ら。

 頭を抱えたくなる気持ちを抑えて、カヅチは言う。


「分かった。全員分のその罪悪感を取り除くと約束する。だから次へと向かおう。あれだろ?ベルモンドが六か国掌握してるんだろ。早めに移動しよう。この地の厄災覚えているよな。蝗害ってやつ。もうすぐこの地は主に穀物が虫に食われる。でも、虫が育つまでにはタイムラグがあるから、ごちゃごちゃする前に移動しよう。」

「は?虫の被害?俺たちゃ、ここの封印をしたはずだぜ。なぁ、サラ。ネオン。」

「う、うん。そうだと思うけど……」


 既にカヅチは北の地に向かって移動を始めている。

 その後について、兄を無理やり引っ張りながらアメリアが続く。


「あの……、俺達の村。食糧不足で大変なことになってました。」

「スラッシュ王国とキャレット王国に被害が出てたみたいで……」

「あぁ?知らねぇぞ、そんなの!つーか、アメリア!」



     ◇


 そして次。


「確かアンドミズだっけ。ここの祠は……。あぁ、さっき先に黄泉の国入りしたやつが封印を解いたんだっけ。さっきも言ったけど……、って言ってなかったっけ。再封印するには中央システムにアクセスしないといけないから——」

「とにかく、倒せばいいんだろ!——チッ!ここも祠が消えただけかよ!こいつの言ってることがマジみたいに聞こえんじゃねぇか。」

「話を最後まで聞けって。ここの封印を解いたら動物に影響を及ぼす病が流行る。……はぁ。この薬を飲んでからにしてくれ。あと四つもあるんだからな。」


 一つ封印を解く、というより中央の入り口を開けるための信号が送られる仕組み。


 本来の予定では自動的にシステムが起動して中央への道が開かれる。

 その為に活躍する巫女をこの地では聖女と呼んでいた。


「ここは……って知っているか。深刻な冷害がやってくる地。氷河期を模した試練だな。この中でも生きられる人間が生まれるように……。って、はい。ここでの死者の復活。さぁ、次。」


 人々の阿鼻叫喚は聞こえない。

 この地はほとんど放棄されているらしい。

 使えるようになるには数年以上待たなければならないか。


「じゃあ、最後。ここスラッシュ王国のセキュリティーを解除する。そんだけ戦える者がいたら余裕だよな?」


 ——ただ、この最後の彼らが化け物と呼ぶネテラクテラの討伐前に、このシステムの権化に物申す者がいた。


「ツッチー……様。お願い。最後の願いは、ちゃんと全部の厄災を止めるってことにして!」

「そうじゃねぇと、俺達は」

「そうね。厄災が復活したままの世界になってしまうわ。」

「つーか、マジぃだろ。このままじゃ、俺達……」


 そして、彼らも実は考えて行動をしていた。

 寧ろ、カヅチが考えなしに行動していただけかもしれない。


 世界を反時計回りに回ったとということを彼らは、カヅチにとっては数世紀以上前の技術で伝えていたらしい。


「お父様!あれが魔王です!大厄災です!今こそ、全軍をもって世界を救いましょう!聖女クリスティーナの名のもとに!」


 挟み撃ちを狙っていたらしい。

 本気で狙っていたらしい。


「うーん。焦るとここまで愚かになるのかな。……なぁ、知っているよな?いや、確か知っていたよな?」


 彼らが魔法と呼ぶ、単なる世界のルールによる攻撃、そしていつかその技術を伝えるかもしれないと思っていた兵器。


 中央には過去に滅んだ人類の遺産が丁寧に保管されていた。


 爆撃に灼熱の炎に毒ガス。

 それらを撒き散らして……


「つまり三百年前の聖女の報告は間違っていなかった。今の人類に技術は早い。そう言った当時の聖女。……選ばれし人間。今も冷凍睡眠中の人間。彼女の言う通りか。」

「覚悟しなさい!私たち人間は自由を勝ち取るの!」


 それはそう。

 今から彼女たちは、前時代的に格差社会を作ってしまった彼らの運命は。


 ——無論、カヅチには関係ない。


「忘れたとは言わせないんだけど。……君らがミカドと呼ぶ中央エリアはどの国からも入れる構造。流石にこれは知っていたよね?」


 その言葉に顔を青くしたかもしれない。

 けれど。


「逃げるな!卑怯者!」


 と遠くの方で言ったかもしれないが。


「知ったことか。それにマイネ。言った通り、その魔物はセキュリティシステムの一つだから、ロック解除とは関係ない。それも……、——知っていたよねぇ?」



 だから、カヅチは葦原の中つ国に残っている人間を無視して、中央施設へ飛んだ。

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