第29話 急転直下
ミカドと呼ばれる中央にそびえる空間はどの国からも入ることが出来る。
但し、この中に入る為には六つの柱の攻略が必要である。
「じゃあ、セミコロン王国の柱アンドミズを倒さねぇと入れねぇじゃん。」
ラルフェンは車窓を眺めながら、王国総務官レイケ・ボワードにうろんな目を向けた。
レイケはそんな彼をカッコよい!と思いながら、ズレた眼鏡の位置を直した。
「いえ。報告によるとアンドミズは攻略されたことになっているようです。セミコロンに派遣している我が軍が掃討したのだろうと推測されます。」
「推測?ずいぶん適当ですね。」
「サラ様、ご冗談を。あの国は疫病に冒されています。簡単には通行できないようになっています。」
その言葉に彼らのリーダーが飛び起きた。
「いい加減なことを言うな。エクスクラメイト政府の報告では偽聖女はセミコロンに滞在していた。その頃には厳戒態勢が布かれていた筈だ。王国の警備は随分とザルなのだな。」
誰が見ても顔色が悪い彼女。
どうしても腫れ物扱いしそうになるが。
「……申し訳ありません。職業としての『農家』のデータが不足しています。それにアレのランクはおそらくですがB級以上。——例えば穴を掘られたら、追跡などしようがありません。入り口と出口さえ分からないのですから。」
そのレイケの報告にアメリアは肩を揺らして笑った。
「あぁ。そういえばそうだったな。あの時の地面はそういう意味か。あの時は生きていてくれと思ったというのに……、——今は殺したくて仕方がないとはな。」
彼女の狂った笑顔にレイケの眼鏡がズレる。
仲間たちもただ、肩を竦めるしかなかった。
「B級以上ねぇ……」
「ほーんと厄介者に育っちゃったよねー」
「あぁ。やはりあの時殺しておくべきだった……」
ただ、その発言には、ラルフェンとネオンは視線だけで確認を行っていた。
アメリアは頭に血が上って気付いていないが、あの必死の一撃をあの男は受け流していた。
そのお陰でアメリアを止めることが出来たのだから、少なくともA級かそれ以上ということだ。
「ま、大厄災を今から食い止めるんだ。そしたらどこでも自由に動けるようになるんだろ?」
「そ、それは次の王のお気持ち次第ですが……」
「なら、大丈夫だ。あのお嬢ちゃんは強欲っぽいからなぁ。……で、ミカドの魔物はどういう形してんだ?」
今のもやもやは、これが終われば全て無くなる。
時間的制約もまた三百年先、つまり自分たちには関係が無くなる。
それに偽聖女はおそらく処刑、あの男も全国的に指名手配になる。
無論、聖女の発言もあるから、男は生かされるかもしれないが、その状況は間違いなく奴隷。
アメリアの溜飲も下がることだろう。
——そしてここからが重要な話だ。
「ミカド内も勿論、精鋭部隊が探索しています。どうやら内部に魔物は潜んでいないようでしたので。」
「ぬ?伝承では魔物が蠢いていたと……」
「おそらくですが、三百年前に掃討されていたのかと。当時の聖女と英雄たちが獅子奮迅の戦いをしたという伝承が本当だったということでしょう。ですから、残すは中央の間です。」
「そこまで分かっているの?」
「……はい。流石にそこから先は聖女様にと入っていませんが。」
◇
畑があれば耕してしまう病発動中のイヅチは廃教会の庭を耕していた。
そして、それを見守る数名の人間。
「久しぶり、ゴンザさん。」
「……ん、あぁ。久しいな。で、なんで耕してんだ?」
「そこは気にしないで。彼は耕しながら会話が出来るから。」
「で、ゴンザさんって祠に入れられそうになって逃げたんだよね?」
その言葉にゴンザは肩を揺らす。
「な、な、なんだってぇ?」
「いや、俺達も入れられたんだから、隠すことないよ。あれは逃げ出すレベルだって。……そして逆を言うとそれ以外に逃げる要素が見つからない。あぁ、ジョージさんたちみたく、犯罪行為したってのは別ね。」
「い、いや、お、俺……は」
「ゴンザさん?私たちは責めている訳じゃないの。いつ、そうされたかってことが聞きたいの。」
彼の口から世界の真実が聞けるとは思えない。
でも、その第一歩には違いなかった。
「王家に口止めをされているのだとしたら、関係ないわよ。だって、もうすぐ新しい王が即位するんだから。」
そう、これは仮説だ。
どうして聖女が突然現れたのか。
そして、何故今、急いで再封印を行っているのか。
「そうかぁ。まぁ、もう時効だろう。俺が逃げたのは今から二十年くらい前だよ。あん時から国は遺跡調査に積極的に乗り出してたんだ。で、なーんか、嫌な予感がしたから俺は逃げ出したんだよ。あれが封印の祠だって知ったのはそれから数年後のことだったけどなぁ。」
「二十年くらい前?じゃあ、俺たちが生まれた頃ってことか。」
つまり、ここ数年で一気に進める必要はなかったということ。
その時、既に再封印が行われていた可能性さえある。
「あのさ。シオリは思い出したくない村かもしれないけどさ。あの村で人身御供って言葉を村人が使ってなかった?」
「え?だって、私たちも同じように思ってなかった?人柱とか人身御供とかって。」
「……いや、他にも言い様はあるじゃん。例えば試練だったりさ。だって、俺たちの時って——」
「そうよね。あれ、もしも私たちがもっと強ければ——」
ただ、ここでイヅチは完全なる思い違いをしていたことに気付く。
「はぁ?お前たち、何言ってんだよ。もしかして俺の言っている祠と違ぇ祠の話か?あそこで祠に宝玉を嵌めこんだら最後、見えねぇ壁が出来て絶対に逃げられねぇんだよ。祠が見えたら、隙を見て即ダッシュ。これが冒険者として生きる秘訣よぉ」
そして、シオリも。
「……でもコロン王国で聖女様が逃げ出したって言っていたような」
「あぁ、あの胸糞悪いクエストかぁ。あのせいでうちの団は閑古鳥……、——それにあんときゃ、祠に入る前に逃げてっぞ。だから厄災が起きたっつー話だった。」
二人同時に目を剥いた。
祠に入らなくとも厄災は引き起こせた。
セミコロン王国も同様の手口だったのだが、あの時点で二人に気付ける筈はない。
「そういうことか。……つまり、柱の厄災を目覚めさせるのに生贄は要らな——」
そう、彼らは柱の真実に近づきつつあった。
その時だった。
「おい!ゴンザ!王国軍だ!」
「あ?俺達ゃ、別に法に触れるこたぁしてねぇだろ!」
ただ、すぐに分かった。
いや、聞き取れた。
石畳を鳴らす、軍靴の音。
「私たちに用じゃないみたいよ。……そちらの聖女様にお話しがあるのだそうよ?」
「私に……どうして、今?」
少女は首を傾げて、彼の判断を仰ぐ。
ただ、彼も同じく首を傾げていた。
「とにかく行ってみよう。今の王はシオリを認めてくれていた筈だ。」
「……うん」
そして、古びた教会の廊下を歩き、この教会に相応しい壊れかけの扉を開けた。
ここはもう、教会として機能していない。
清掃も雑にしか行われていないのだろう、砂と埃まみれの木の床。
——そこに王が跪いていた。
「お迎えに上がりました。我らが新しい王、シオリ・S・ソルトレイク様」
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