第23話 六角形の大陸
ほぼ六角形の大陸の南方がスラッシュ王国。
そして南西に位置するのがキャレット王国である。
「さぁ、我が聖女様。今回も民を導きましょう!」
ついにアーノルドが付いてくるようになった。
つまりエクスクラメイト王国の軍隊も動き始めているということ。
あの聖女の言葉は世界中に発せられた。
そして、直後、聖女の予言は的中してしまったのだから、今から聖女を名乗らせるには、デメリットが大きすぎる。
——いや、世界は既にクリスティーナ・ベルモンドが聖女であると認識している。
「……コロン王国での封印の誤作動を利用したのか?」
アメリア・ラインヘッドは聖女のお言葉が書かれた紙を握り締めていた。
「アメちゃん、あんまり考えすぎない方がいいんじゃない?順調に世界平和には向かっているわけだし。」
「だな。っていうかよー。封印の誤作動ってなんなんだよ。柱は現れてねぇんだろ?コロンは氷漬け。んで、次は疫病?まるで意味が分かんねぇな。」
「御意。全ては偽聖女騒動が元凶。それに我らの役目は厄災が広まらぬよう、早期に封印解除、再封印にこそある。」
仲間たちはそう言う。
それに再封印の定義は目覚める前に強制的に封印させることだから、その厄災が暴走する可能性は勿論ある。
「三百年前は今回よりも酷かったという話ですよ。偽聖女騒動があったのですから、致し方ありませんよ。」
「つーわけだ。遅れを取り戻すためにも、とっとと次の国の予定を立てようぜ。」
スラッシュ王国での再封印は予想以上に手間取っていた。
同列のS級冒険者グリーグ隊を含む、いくつかの冒険者たちがセミコロン王国に派遣されていたことが大きい。
「なぁ。この麦わら帽子の農夫ってさ……」
「ネイルさん!この人の名前って分ります?」
ガランドール家の生まれネイルと同じパーティのフィング・レオパード。
彼らの冒険者パーティはどちらかと中庸に分類される。
ただ、先のコロンで活躍したことにより、A級冒険者へと格上げされた。
だが、ガランドールとレオパードは聖戦に積極的とは思えなかった。
「……確か、平民上がりの冒険者……それくらいしか。どうも、偽聖女と共に行動しているらしい。」
「いやいや、ネイルっち。もういいっしょ。イヅチ君、ってか、君たちと同郷っしょ?こないだまでは口留めされてたけど、A級なら知っといていいんじゃね?ってか、気付かない方がおかしいっしょ?」
愛国心は強いが、王家に対してそこまでの忠誠心を見せていないガランドール伯爵とレオパード伯爵。
彼らがその話をしたことで、一時的にネイル隊は機能不全に陥ってしまった。
「あ?逃げたんだよ。アイツはあの——」
「ちょーっと待って。サラ、ラルフェンをどっかにしまっといて。」
「おい、てめぇら!」
「あのねぇ、ガチロ君、マイネちゃん。あの子は私たちが契約金を支払ってすぐに行方をくらましちゃったの。」
因みに、その時アメリアもケビンに説得されて口を噤んだという事態に陥った。
そして、それだけではない。
彼らは六人パーティだから、常識的に考えて彼らが人身御供を引き連れてしまうと違和感がありすぎて、聖女の心証が悪くなる。
だから、祠と柱の七つを殆どアメリア隊で制圧しなければならなかった。
ただ、多少のわだかまりはあるものの、若者たちは少しずつ現実を受け入れていった。
「経緯はよく分からないけど、ツッチーが偽聖女を匿ってんのかよ。」
「だーかーらー、手紙とかが送りにくくなっちゃってたのね。地形的に封じ込めやすいからって、私たちの故郷散々じゃない。だから罰が当たったんじゃない?セミコロンは……」
「君たち、ちょっと喋りすぎよ。セミコロンは国民の半数を失ったの。あまり口に出して良い話ではないわ。あんたたちだって王族に目をつけられてるの、忘れないで。」
「はい!イバラさん!」
セミコロンの王都周辺は術士が多く、大きな被害は出ないと予想されていた。
ただ、地方住民及び周辺住民はほぼ助からないだろうという話。
「急がなければ……」
「アメちゃん。無理はしないでね。」
アメリアの血筋も聖女の血筋。
彼女は常に世界の為に一人を犠牲にする選択をしていた。
しかも、何度も何度も。
「気楽に考えろとは言わねぇけど、俺たちには聖女が居るんだぜ。つまりは神の代行人だ。」
「我ら全員、同じ責務を担っていることを忘れるでない。」
「……あぁ。分かっている。だからこそ、しっかりと選ばねば」
——世界の為に命を捧げられる者
既に鷹の希望団は使えない。
ここまで目立った動きをしていれば、勘づく者もいる。
幻術に掛ける前に逃げ出されてしまう。
「キャレットの冒険者の中で、有望なるC級冒険者を探しだそう。なるべく、生きて帰られる者。あの若者たちのように……」
勿論、本当に逃げたのかは分からない。
逃げたという前提でここまで来てしまったが、あの場に残った畑にどんな意味があったのかは、未だに不明だ。
だが、ここでも同じような奇跡が起きるかもしれない。
なれば、アメリアの苦悩も少しは紛れる。
——けれど、運命とは残酷で
聖騎士団の名を冠した彼らの元に、あの一行が合流してしまう。
そして、グリーグ、アライザ、クリスの三人の貴族が所属するグリーグ隊は。
アメリア隊を無視して、そのままクリスティーナが居座るキャレット来賓室へと入っていった。
それから一時間経った辺りだろうか。
聖女が彼のフィアンセと共に姿を現したのだ。
そして聖女は言う。
「時間がありません。今日中にキャロットを解放してください。そして明日はピリオド王国の解放。出来る限り早く解放して、帝に報告に行きます。」
「今日中……ですか?」
「そうです。世界の危機が迫っています。今日中です。」
「ですが、時間はまだ……」
今までもそうなのだ。
ここまで急ぐ必要はない筈なのだ。
——だって、彼女が聖女。
ならば、一年は余裕が出来たということ。
「聖女様。そこまで焦らぬとも……」
「うるさい!お前も聖女の家系らしいな。その白銀の髪。……今回はお前のせいで厄災が起きるのか?」
その少女の言葉にアメリアは言葉を失った。
セミコロンだけではない。
コロンも半数以上の人間が死んだと考えられている。
「……です……が。まだ、勇敢な戦士の用意が。」
実際にまだ一人も見つけていない。
殺しても良い無垢な国民など、居て堪るか。
「そのことに関しては良い考えがあります。既に王の王は決まったも同然。金でいくらでも買収できます。」
既に何度もアメリアがやってきた方法。
申し訳ない気持ちでお金を渡していた。
ただの偽善だったけれど。
「国庫が尽きようとも、全てが回収できるのです。……いや、そもそも勘違いが過ぎますぞ。世界を救う英雄を称賛するだけです。さぁ、聖女様。皆に呼びかけるのです。」
そして、クリスティーナは壇上へ向かう。
◇
青年は流石に麦藁帽子を脱ぎ捨てていた。
そして、少女は相変わらずの灰被り。
「ん-。本当はコロン王国に行きたかったんだけど……」
「私たちは二人とも魔法は使えないでしょ。心中なんて笑えないし。っていうか、何をしに行くって?」
セミコロン王国の移動はあまりにも容易だった。
疫病に恐怖して、誰も外に出ていない。
どこの家も窓を閉め切って、部屋明かりさえ漏らしていない。
「ちょくちょく村の外に出てたんだ。んで、セミコロンの柱にも行ってみた。」
シオリは目を剥いた。
彼女が村で教師をしていたころ、彼は実は村に居なかったという。
「どうして?……あ、でもあの村のみんなもジョブを持っていなかったんだっけ。それに危なくなかったの?あ、そうか……」
そういえば、イグサがあんなことを言っていたと、シオリは合点がいった。
「そっか。どこかの冒険者がうろついていたって。」
「ううん。あのさ————」
「え?そんなこと、だからコロン王国に行こうって?」
「うん。でもさ————」
そして二人はある場所へと向かう。
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