第16話 コロン国、冒険者の快進撃
大柄な体格と短髪赤毛の青年、そして金髪の可愛らしい女性。
彼らはリーダーであるネイル・ガランドールらと共に馬車で移動していた。
「セミコロンを飛ばしてコロンに行くんだと。聖女様の予言らしいけど、西も東も異国ってどうも落ち着かないな。」
「まぁ……ね。それにせっかくお祭りをしてるのに、私たちは相変わらず仕事だってー」
「……祭りねぇ。父ちゃんと母ちゃんは参加できないんだろうけどな。」
「偽聖女が潜り込んでいるかもしれないからだっけ。それからなんだっけ、謎の麦藁帽子の男が潜んでいるって話よね。」
平民の彼らには伝わらない情報もある。
加えて言えば、上級冒険者以外にも伝わらない情報がある。
「なになにー。俺にも聞かせてよー。君たちって噂のムツキ地区出身者だもんねー。」
「さっき話したのが全部っすよ。偽聖女がいるから気を付けろってだけ。」
「んで、なんて言ったっけ。大金持ちが引っ越してきたのよね。ムツキ村の一等地を買い上げたんだって。ソルトレイク伯爵だっけ。」
彼らが聞かされないのは、冒険者にとってとてもセンシティブな内容が含まれているからである。
つまり聖女の話よりも生贄の話。
中途半端に伝えてしまうと、そこから勘繰られる可能性があった。
しかも、偽聖女を逃がした男と偽聖女の情報。
どっちが大事かと言われれば、それは世界を救う偽聖女に決まっている。
だから、彼らの幼馴染が追われているなんて話は彼らには回ってこない。
「ふーん。まーたお貴族様の隠し事か。ま、俺達は安全なところを狩るだけでいいんじゃね。ま、なんでセミコロンを飛ばしたかについてはなんとなく分かるんだけどねー。」
彼の名はゲージ。
二人と同様に平民の出の冒険者である。
ただ、二人よりもずっと先輩なので、二人が知らないことくらいは知っている。
「え、なんでなんですか。エクスクラメイトの再封印が終わって魔物が出なくなった。だから、他の国に派遣されるのはなんとなく分かるんすけど、できれば隣の国が良かったなーって。」
「えっとねー。一つは今年生誕した本物の聖女様が田舎は嫌だって言ったこと。ま、これは知っているよねー。」
「え、その話本当なんだ。なんか迷惑な話ね。」
「それともう一つ。で、こっちが重要だな。さっき言ってたろ?エクスクラメイトはお祭りをやっているって。六柱を封印すると魔物が暫くでなくなる。だからお祭りが行われるんだけど、俺の読みだと偽聖女はセミコロンにいるって思われているんじゃないかな。エクスクラメイトの柱からセミコロンって結構近いからねー」
と、情報を手にしている冒険者もいる。
ただ、この四人乗り馬車にはもう一人平民出身の冒険者が乗っている。
彼女の名はイバラ。
「ゲージ、甘いわね。それだけじゃないわよ。私の情報が確かなら、このコロンにも聖女様がいるって話よ?で、ベルモンド家的にその聖女と娘を対決させたいんじゃないかしらねー。アメリア隊も結局こっちに飛ばされたみたいだし。」
そう。
ソルトレイクの噂は既に世界中に轟いていた。
つまりは言ったもの勝ちの聖女伝説。
そも、クリスティーナの髪も白くはあるが、シオリほど白くはない。
更に実は老婆だったのでは、という考察は意外にも人々に受け入れられていた。
「えー。マジっすか。偽聖女どころじゃないじゃないですか。」
「……でも、それって逆に良いことなんじゃないですか?」
ガチロとマイネはそれぞれに色んなことを考えた。
そんな中、彼らは見知った顔とすれ違う。
勿論、車窓からだからあちらには気付かれていない様子だったが。
「あれ、ジョージじゃない?どうして彼……」
「いや、それだけじゃないぞ。あれって鷹の希望団の面々じゃね?そっかあの団もやることが無くなって。」
そこで馬車はゆっくりと速度を落としていった。
別にガチロとマイネが懐かしの再会を希望したわけでもあるまいに。
そして、前を行くネイル・ガランドールとフィング・レオパードが鷹の希望団と何やら話を始めている。
そして丁度その時、超有名な冒険者を乗せたペガサス馬車が上空から舞い降りた。
「ネイル。この国は全然祠を再封印していないみたいなの。それと私の隊は急遽使えないことになった。祠の直前までは行くんだけど、祠の解除はお願いできる?」
その言葉に目を剥く中年の男。
「……私の隊にクリスティーナが入ることになった。……その意味分かるわよね?」
「それは、……確かに。でも、グリーグ・ゲーメイト隊は……」
「勿論、来ているわ。聖女は一人、それを証明する必要があると、王命よ。」
「どうも!私が聖女のクリスティーナです!今日は一気に五つの祠を再封印しようと思います!その方が、お父様も良いだろうって!」
確かに言わんとしていることは理解できる。
そも、コロンはまだほとんど動いていなかったのだ。
「一応、我々も冒険者を募っておりましたが、昨年は聖女様がいらっしゃるのではないかと、様子を見させて頂いていたのです。」
今度は全然知らない冒険者がその場に偶然ではないのだろうが、合流をした。
「コロンのB級冒険者、三組。そしてグリーグ隊、ネイル隊で五つの祠を攻略するの。私たちは遊撃隊。何かあったらすぐに駆けつけるから。」
あっという間に話が決まっていく。
ネイル・ガランドールは顔を青くしているが、そこに現れたジョージに話を聞いて、顔色が戻っていく。
「やはり、これが冒険者の務め。……でも、問題ない。七人目のパーティの使用を聖女様がお認めになったのだから。」
◇
「今日中に五つって。凄いな。でも、手付かずだったんなら仕方ないのか。」
「全部、偽聖女のせいなんでしょ?聖女の力で封印できるって聞いてたらしいから。それにしても、ロメロ君。久しぶりね!」
「あ、うん。僕もようやく買ってもらえたよ。聖女様のお導きがあったんだ。」
そして、急遽七人になったパーティ、と聖女クリスの名の下に、一つ目の祠はネイル、アメリア隊によって見事に封印することが出来た。
勿論、そこにロメロの姿はなかったけれども。
「くそ。ロメロ、あいつ、無理しやがって。」
「でも、冒険者ってそういうものよね。私たちだって……」
次はコロンの部隊の番だった。
そして、そこではリンダが彼らと話しをしていた。
なんと、団員ではなかった筈のヤスノルが入団していたらしい。
「ガッチー。私たちは次の場所に向かうみたい。ヤスノルの活躍を見る暇はないわよ。」
「そっか。ヤスノル、頑張れよ!」
そして、見事にコロンの精鋭たちとアメリア隊改めてクリス隊は二つ目の祠の封印に成功した。
勿論、ヤスノルは。
その後の二つの祠をコロンの部隊と、クリス隊が制圧したという情報がガッチーの耳にも届いた。
「案外、楽勝?」
「さぁね。アメリア様とグリーグ様がコツを教えているって話だけど」
ここでもタカミ―とグエンの姿は消えている。
でも、二人にはその情報は伝えられない。
「さ、次はグリーグ隊だけ。ここを封印すれば、この国の柱・クリオヌーラまであと一歩か。なんだかんだ、俺たちも名前を残せるかもな。」
「うん。だって私たちって、もうB級でしょ?なんか、自分のことじゃないみたい!」
因みに、ここもあっさりと攻略できた。
一人消えていることも、C級冒険者だったんだから仕方ないとさえ思える。
——そして、ついにコロンの封印は一柱、クリオヌーラを残すのみとなった。
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