第14話 神、鬼、人、
*
ステアリングを握りながら、リンドウは溜息を
天気は――まあ、少々曇っているか。
リンドウは本来、
絶対に入ってはならない禁忌、というわけではない。現に
では、何故気持ちの上で避けるのか。
踏み入れば察知されてしまうからだ。
主に
それが
後々が面倒なのだ。
そもそも、神と言うのは執念深いものだ。玄武様がリンドウを捨て置いてくれないのは、先代マダラである母が、選択対象であった
神を選ばなかったマダラは――歴代で母が二人目だと言う。
神同士の連携は強く深い。その存在の連帯は、ほぼ同一と見て構わないだろう。四神は特にその傾向が強い。要は、朱雀様を選ばなかった母の選択に対する意趣返し――までは行かずとも、報復――でもなくとも、まあ、今度こそは、という事だ。
我知らず、リンドウの眉間に皺が寄る。
全く、面倒な血に生まれついたものだと思う。
マダラは、額の
選ぶ男で全てが決まる。そう言われてきた。
マダラが選ぶのは三種。
神か、鬼か、人か。この
この
母の代では選択までに大層時間が掛かったそうだ。対象となる人と鬼がなかなか
神、鬼、人、それがひとつずつ名乗りを上げ、マダラが選ぶ。出揃わなければ、競いようもない。選択には五百年かかった。
――いいか。お前の選択次第でこの国が揺らぐ事になる。だから、
父からそう言われて、リンドウは育った。
神を産ませたくば人を当てる。
鬼を産ませたくば神を当てる。
人を産ませたくば――鬼を当てる。
理屈は知れぬが、
まあ、
わかっておかねばならぬのだろうが――嫌気はさしている。
出来る限り、そ知らぬふりをして関わり合いにならぬようにしておきたかった。そうして今に至っている。逃げきれぬ事は承知しているが、せめてもの反抗だった。
選ぶ男次第で産む者が変わるから、当然利権が
例えば、国の中枢に関わる、とある団体もその内の一つである。彼等は国体護持のための神柱を産む事をリンドウに期待している。神を産ませたくば人を当てる。故に、人に援助を行っている。
その事実は、リンドウを失笑させる。
何度も聞かされた言葉に、実はあまり熱は
先代時は、その悲願が果たせなかった、という事だ。
母は――人を選んだというのに。
凡そ、というのは、そういう事である。
法則が揺らいだ結果生まれたのがリンドウだった。
リンドウは、マダラの人として生まれた。
マダラの鬼である母と、人の父との間の子である。
落胆は――計り知れなかったそうだ。
無言のまま、リンドウは、ちらと視線を助手席に向ける。
隣に座すのは
再び人の
白磁のような肌は、今日も腹立たしい程になめらかだ。
ち、と微かに舌を鳴らした。
そう思う己の浅ましさに――まあ
己を誤魔化しても仕方がない。
この男に対する恋着は、もう泥のように胸の底にへばりついているのだから。
(――そんなに見詰められては、どうしようもないぞ、マダラの。そんなに儂に喰らわれたいか?)
ぼそりと
「唇に梅の
(それは早ぅ言わんか)
眉間に皺を寄せて唇を手の甲で拭う仕草にリンドウは「ふふ」と笑った。そんなもの、最初からついてなどいないのに。
(とれたか)
「運転中。信号で停まるまで待って」
むぅ、と藤堂は、その短く刈り上げた黒髪に手をやった。鋭い
こんなつまらない戯言のやり取りでも心が
己の心次第と言うならば、身も心も、この鬼で既に決まっている。
しかし選ぶ事はない。
決して、ないのだ。
リンドウは、その唇を、きゅ、と引き結んだ。
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