北改札を出て東口、【ダンジョン】前で合流を。【完結編】

 スマホのステータス画面には、私のレベルが2になった、と通知がきていた。

 さっきの猿を倒したから、かな……それしか覚えがない。


 新しく獲得したスキルや魔法もあり、

 これらが、国籍を戻すとリセットされるということだろう。


「いいです! 元の世界に一刻も早く戻りたいですから!!」


「そうだね、じゃあ戻ろうか……。ただ、赤く染まったエリアは今後、全国を浸食するものだと考えた方がいいかもね……そうなった時、レベルが高い方がいいと思うけど……」


「それは……、じゃあ――

 でも、国籍を異世界にしたまま、現実世界へ戻ることは、できないってことですよね……?」


 可能なら、国籍を戻すかどうかを訊ねることはないはずだ。


 できない、もしくは不都合があるから、国籍の移動を推奨している……。


「国籍が異世界にあると、現実世界に滞在できるのは『三時間』だけだ」

「やっぱり……」


「それ以上、長く滞在すれば……異世界のモンスターが君を狙ってくる――。

 今日一日で、実例がたくさんあるからね」


 現実世界では当然ながら、魔法もスキルも使えないらしい。

 駅に入った段階で使用不能ロックされるのだから当たり前だけど……。


「――国籍を戻します。とりあえず、お母さんとお父さんに無事を知らせないと」


 二人がいる他県は、まだ浸食されていないから安心だけど……。



『――やっと電話が繋がったわ、音羽、大丈夫よね!?』

「うん……なんとかね。でも家が……」

『そんなこといいわよ、あなたが無事ならね』


 お母さんの声でほっとする。

 地元が異世界になってしまったことは、変わらないことだけど。


『私たちもすぐにそっちに向かうから。ただ……同じことを考えている人が多くて、道が混んでてね……ちょっと時間がかかるかもしれないから、その――』


「うん、私一人でも大丈夫。

 友達もいるし、お金もあるから……ホテルとかに泊まるよ」


『……困ったら連絡してきてね。

 絶対に! 異世界にはいかないこと! 分かった!?』


「うん。もうあんなとこ――ううん、分かったよ、だから心配しないで」


 お母さんとの通話を切る。

 お父さんの声はなかったけど、きっと隣にいたのだろう。お母さんのパニック度合が控えめだったのは、お父さんが隣で背中を擦っていたからだろうなあ、なんて想像ができてしまう。


 連絡はした。これで安否確認は完了。あとは二人と合流するまで、どこでどう時間を潰すか、だけど……、友達に連絡をしても応答がない。もしかしたら、まだ異世界にいる……?



「音羽ちゃん、これからどうする?」

「……とりあえずホテルを……」


「空いてるかな? じゃあさ、嫌じゃなければ、僕の家を貸してあげるよ。

 どうせ情報収集するために家には帰らないから――はいこれ、鍵。住所は――」


 峠本さんに勧められ、彼の家の住所をスマホにメモする。


 そういう機能は使えるらしい。


「……いいんですか?」

「うん。汚いから、掃除してくれると助かるよ」


「……汚そうですもんね」

「僕のモジャモジャ頭を見ながら言ってない?」


 峠本さんとは知らない仲ではないし、襲われる心配もない……。

 絶対、とは言い切れないけど、ジャーナリストをしている以上、未成年を襲ったなんてことが他のジャーナリストにばれたらと思うと……彼にそんな度胸はないと思うし。


 他人の不幸があれば、自分が汚れても構わず近づく人だ。

 自分の汚点が生まれれば、そこに群がる人が大勢いることを知っている……、自分のことをよく理解していれば、されることも分かるのだから――なのでこの人は安心に最も近い。


「まさか異世界にいくんですか?」


「奥まではいかないけど……ちょっとは調べるつもりだよ。

 大丈夫、死なない程度に、深追いはしないようにするから」


「ジャーナリストのあなたがそれを言っても……」


 でも、生きて届けるのがジャーナリストだ。

 死ぬようなことはしないはず……。


「ちゃんと帰ってきてくださいね?」


「わあ、今の言い方、奥さんみたい」


 ふふ、と思わず笑顔になる。

 異世界だったら魔法を飛ばしていましたよ?



 峠本さんを見送り、私は彼の部屋へ。


 部屋の中は予想よりも倍以上も汚くて、掃除するのに丸一日を使った。


 全てを終えたのは深夜……てっぺんを越えてだ。


 ふう、と一息ついた私は、食事を作り、テレビを点ける……すると、


 昼間はニュースがやっていたのに、気づけば画面が変わっていた。



『更新:今日のクエスト情報』


「『土の下の三兄弟』…………これ、って……――」



 


 既に私がいるこの地域も、異世界になっているらしい。




 ―― 完? ――

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