第16話 3回目を生きる者。

東京封鎖と東京病。

無関係ではないものの小雪と俺の生活は日々充実している。


俺が食事の用意をして小雪が洗い物をしたり、2人で作って2人で洗ったりもする。


小雪は毎食「うぅ、清明ご飯美味しい。絶対太る」と言いながらも食べてくれて「清明の肉野菜炒めとつくね丼は大好物って言う!」とまで言ってくれる。


ラジオとお茶を用意して2人で寄り添いながら空を見て幸せな時間を過ごすと、小雪はこの暮らしが2回目でも楽しいと言ってくれる。


夜は小雪を大切にしたい気持ちで我慢をする。

心は通じていて、無理にする必要はない。心の距離が近ければ無理なくが一番いい。


だがそんな俺の心を察してくれるのか小雪は俺に抱きついて耳元で「清明、いいよ」と言ってくれてついしてしまう。

だが簡単には済まずに時間の許す限り俺は小雪を求めてしまう。


行為後に時計を見てとんでもない時間になっていて「ごめん。なんか簡単に済ませられなくて、時間かかるから寝不足…」と謝ってしまう。


「平気だよ。清明は嫌なの?」

「俺は嫌じゃないよ。でも、小雪とは心も通じてると思ってるから、しなくても心の距離は近いから無理に焦ってと言うのがないんだよ。それは俺も男だから横に素敵な奥さんがいたら求めたくなるし、でも無理矢理は嫌だし、だから我慢しなきゃって思ってる」

小雪は俺の言葉にブルッと震えた後でギュッと抱きついてきて「バカ清明。もっとしたくなる。私だって清明が好きだからしたいんだよ」と言ってきた。


「ありがとう。無理なくね。俺も小雪と暮らす為に仕事探したりするから、今子供が来てくれるとちょっと困る」

そう、俺は東京に帰れないで秩父に居るが良くてフリーター、悪くて無職の男でしかない。

無職なのに可愛い奥さんが出来てしまって勘違いしてしまうが、ここで赤ん坊が来てくれると嬉しいが詰む。

小雪も納得して「確かに」と言った後で俺を見て「でも清明は強いんだよ。だから平気、仕事もすぐに見つかるよ」と言って微笑んでくれた。



俺から程遠い言葉を聞き返すように「強い?」と言うと小雪は「1回目、変質者に襲われた時に私を守る為に戦ってくれたんだよ」と教えてくれる。


「戦う俺…イメージつかない」

「ふふ。いいの」


小雪は下着姿で俺の胸に収まると「ねえ清明、長生きしてよね」と言う。


「うん。俺みたいのは太々しいから長生きするんじゃないかな?」

「私のお父さんみたいのはやだよ」


小雪の真剣な顔と声に俺は「うん。約束する」と言う。これは大事な話で茶化していいものではない。俺の言葉に頷いた小雪は「後さ、私は清明の母親みたいにはならない」と言ったので俺は「うん。小雪はなれないよ」と言う。もう魂から別の存在だと思う。


小雪は「口にしようよ」と言って俺達は下着姿で抱きしめ合いながら「俺は長生きして子供に寂しい思いはさせない」「私は自分優先で子供を悲しませない、負担を感じさせない」と誓い合って眠りについた。



小雪から秩父について色々教わり、秩父人になった頃、東京封鎖が解除される。


俺達はすぐに東京に戻る為に役所に行きウィークリーマンションを引き払い、クリニックに行って東京に戻る報告をする。


「水を差すようで悪いが検疫をしないと今はまだ東京には戻れないよ?」

そう言ってくれた医師には「いえ、私達が行くのは隔離施設です」と小雪が言う。


「隔離施設?」と聞き返す奥さんに「婚姻届けに一筆貰った日に説明しましたが妹が待っているんです」と俺が言い、小雪は「今度こそ失敗しません」と言うと送り出してくれた。



手続きは全部小雪がやってくれた。

小雪は全部覚えてきて時間を見てはスマホに登録してくれていた。


東京の隔離センターに連絡をしてくれたがそもそもは電話番号は知る人ぞ知る、ホームページを隅から隅まで見ないとわかりにくいところにあったが小雪は前に探したからと言って電話をして「霜月 水月の家族のものです」と言って水月の存在を確認すると「家族として隔離されます。これから2名向かいます」と言うと途中駅に自衛隊のバスが隔離していた人たちを解放するから乗って欲しいと言われて俺達は東京へと帰る。


俺が車内で「小雪…ありがとう」と言うと「可愛い妹の為だからね。3人で擬似家族してさ、幸せを先取りしよう」と小雪は言ってくれた。


自衛官に聞くとやはりあの母は今朝水月を見捨てて帰っていた。

小雪が会わないように調整してくれたがそれでもギリギリだった。


「妹は…、水月は寂しがり屋なので泣いてご迷惑をおかけしてますよね?」

俺が聞くと自衛官は「いえ、お利口にしていましたよ」と言ってくれる。


気遣いなのか、はたまた俺の知らない水月は1人でも平気なのか…、だとすると2回目の肺炎は何だったのか…。


気になりながら隔離施設が見えてくると小雪が「お〜、懐かしい」と言って笑う。



そして施設の前で自衛官に「お世話になります。霜月 清明です。妹の水月がお世話になっています」と挨拶をしていると自衛官に連れて来られた水月が「お兄ちゃん!!」と言って駆けてきた。



「水月!」

「来てくれてありがとう!」


俺に抱きつく水月には泣いた後も何もない。


そして横でニコニコしている小雪を見て「小雪ちゃん!会えた!来てくれてありがとう!」と水月は言った。


「え?」


小雪の話なら水月に会ったのは1回目。

今の水月は小雪を知らない。


小雪も困惑の顔で「え?水月ちゃん?」と聞き返す。


水月は小雪を見て「またここを出たらハンバーグを食べてしゃばの味ってやろうね〜」と言って笑う。


俺は何の話かわからずに「水月?」と聞き返す横で小雪が「え?ハンバーグ…娑婆の味って…」と言っていると水月は小雪を見て「もう2人でマジカルナースごっこは出来ないけどまた遊んでね!」と言った。




世の中は不思議なことが溢れている。


水月に聞いたら水月も3回目だった。


「しゃばの味をした後で小雪ちゃんがぎゅっとしてくれて、あれが嬉しくてまた会いたいって思ったらここに居たの。でもいくら待っても、探してもお兄ちゃんも小雪ちゃんも居ないから外まで探しに出たら道がわからなくて風邪ひいて、それで苦しくて眠ったらまたここだったの。なんか今度はお兄ちゃんと小雪ちゃんに会える気がしてたからお利口に待っていたんだよ」


俺はよくわからない娑婆の味を聞くと、1回目に俺と水月の隔離生活が終わったお祝いとして小雪がファミレスで奢ってくれていた。

帰りのギュッとは駅で別れる時に小雪が水月を俺と小雪の娘ならと思って抱きしめていた。


小雪と水月の話を聞きながら驚きを口にする俺に水月が「お兄ちゃんは覚えてないの?」と聞くと小雪が先に「清明はマジカルしてないからかな?」と答える。

小雪の答えに嬉しそうに笑った水月は「小雪ちゃんは今度は一緒にいてくれる?」と聞く。


小雪はニコニコと頷くと「勿論だよ。私ね、清明のお嫁さんにして貰ったんだよ」と言う。


水月は外の部屋に声が漏れる勢いで「ええぇぇぇ!じゃあ水月のお姉ちゃん!?」と聞き返す。

小雪はニコニコとしたまま「うん。いいかな?」と聞くと水月は「やったよ!小雪ちゃん!ずっと仲良しでいようね!」と言って抱き着いていた。



水月はもう俺そっちのけで小雪に付き纏う。

俺は壮絶にヤキモチを妬く。

このヤキモチは水月が懐かないモヤモヤなのか、小雪を取られたモヤモヤなのかわからなかった。


「ねえ、水月ちゃん。ここでは私がお母さんで清明がお父さんで水月ちゃんが私達の娘みたいに暮らそうよ」

この提案に水月は飛んで喜び、あっという間に半年は過ぎていく。


3人暮らしは本当に楽しかった。

水月は小さい頃の俺のように不安がるがその気持ちを知っている俺と、その気持ちを理解してくれる小雪が無理なくケアをすると本当に嬉しそうに笑い懐く。

その笑顔が嬉しくて俺も笑顔になると小雪も笑顔になる。

その笑顔でまた水月が笑顔になると俺が笑って小雪も笑う。

止まることなく笑顔の連鎖が続く日々だった。


半年の間に小雪がたくましいのは、自衛官に東京病で俺の勤め先が無くなったと言い、ツテで仕事を見つけて貰っていた事だった。


半年後、検査で陰性だった水月を連れて隔離施設を後にして3人で娑婆の味を満喫した。


こうなると水月は親に懐かなくなった。

元々、俺と同じで親に捨てられたら行き場がない気持ちから固執していただけで、結婚をした俺の元に来るようになると親達もこれ幸いと遊び歩いたり数える事も放棄した別居や家出をしていた。


そうなれば水月の面倒を見る時間が増えるし、小雪も賛成してくれた。

それもあって俺は大家さんに引っ越す話をした所、単身向けではなく家族向けの物件に空きが出たと言って勧めて貰えて大家さんの物件間で引っ越しをする事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る