第15話 小雪が教えてくれた3回の旅路。

明け方、モゾモゾと動く小雪に反応したら5歳児から大人に戻っていた。

小雪は俺を起こすと愛しているかと聞いてきたので「勿論」と返すと思い切りキスをされた。


そして「誰かと比べたりなんてしないから、緊張しないで抱いて」と言われて俺は震えながら小雪を抱いた。


例の彼女とは行為をした。

一度や二度ではない。

だから大丈夫とたかを括ったが甘かった。


こう思うと前の彼女には悪いが本気はやはり違う。


彼女の時も本気で大切に抱いたつもりだった。

だがつもりだった。


痛くしたくない。

悦んでもらいた。

満たしたい。

満たされたい。


目の前の小雪だけを見ていたい。

小雪の声だけを聞いていたい。

見えた小雪の唇だけに集中してキスをしたい。


そうして全身全霊で行為をしたらあっという間に朝になっていた。


それにしても何で小雪は俺が緊張する事を知っていたのだろう?

その答えはテレビを見て固まっている時に知った。


東京病

東京封鎖

子供病


何だそれはだったが小雪は全部知っている事を話してくれた。


「清明、私は夢でこの先も見てきたの。3回目と言えば良いのかな?だから治し方も知っていたし、この先の解決策も知ってるの」

「小雪?何が起きるの?」


俺は疑う気もなく小雪の話を聞く。


一度目、あのまま封鎖された東京から出られずに小雪と過ごす数ヶ月。

罹患者と接触したとして隔離施設に送られて小雪との日々の中で母親と水月が隔離施設に送られてきて小雪とトラブルになる。

だが小雪と水月は仲良くなってくれていた。


しかし東京病のウイルスの有無によって水月だけが施設に残り、母は水月を見捨てる。

俺は小雪と水月の二択で水月を選んだ。


小雪は悲しげな顔で「仕方ないけど、悲しかったからね」と言って俺をジッと見てくるので俺はその目を見ながら「…うん。ごめん。どうしても見捨てられないと思う」と返した。



そして小雪は俺と水月がいつ戻れるかもわからない中、大人に戻り俺を待てないと彼氏を作ってしまう。何となく仕方ない気もしつつ一応不快感を示すように「小雪さん?」と言うと「…それは…ごめん。でも1人は嫌なんだよ」と言って下を向いてしまう。



「まあわかってた。それで…?」


小雪は新しい彼氏との生活の中で俺との日々と結末を悔やんでいたある日、朝起きると昨日の朝だったと言う。

結末を変える為に前に大人に戻った時に見聞きしていた子供病を偶然治していたあのクリニックに俺と行き秩父で東京封鎖を回避していた。


小雪は照れ臭そうにしながら「私は清明のお嫁さんで霜月 小雪になったんだよ」と言い、その顔が可愛らしくて「そうなんだ。ありがとう。でもここに居るって事は。何かあったの?」と聞く。

もう話を受け入れている俺は小雪がどうして3回目にきているかを聞いた。



聞きながら別の疑問は俺と居るのが嫌なら1人で秩父に来るはずだし、俺と結婚したと言わないはずだ。


言いにくそうにする小雪は「えっと…ね」と言って始めた話に俺は驚き悲しみ、そして同時に母ならやると思った。


「水月が肺炎で…」

「うん。だから私は2回目で清明をケアしながら3回目に来れたらって思いながら隔離施設の場所を調べたよ!大丈夫!東京封鎖の解除と同時に施設に水月ちゃんを迎えに行こう!」


この言葉に感謝をしながらも隔離施設と聞いた俺は「小雪…、隔離施設」と確認すると小雪は「いいんだって!中々だったよ!清明ご飯じゃないけど3人で家族みたいに過ごそうよ。1回目は水月ちゃんと私は姉妹みたいだったけど今回は母娘だよ!」と言ってくれた。



俺は「ありがとう小雪」と言いながら小雪の前に立って「俺みたいな退屈で面倒な男とこれからもいてくれる?結婚してくれる?お嫁さんになってくれるかな?」と問いかけると小雪は「うん!私も良いお嫁さんになるね!」と言って抱きしめてくれた。



ヤバい。

例の彼女とは比べ物にならない破壊力。

これは慣れるまで忍耐が必要だ。


この後は小雪の後ろで見ているだけだった。

手際よく役所に行ってウィークリーマンションを手配してもらうとそこは前回と同じ部屋らしく「清明、そこがブレーカーと元栓。お風呂はこっちね」と教えてくれる。


「同じ暮らしって嫌にならない?」

「全然、楽しかったよ。毎日秩父散策をして清明とずっと居て幸せだよ」


テキパキと準備を済ませた小雪は「あ、大家さんが1回目に変質者に殺されたから2回目に電話したら助かってたの。清明、電話してよ。安否確認が減れば大丈夫だからさ」と言うので大家さんに電話をしたら「おや、偶然旅行に行っていたのかい?良かったですね。こっちは平気ですよ。霜月君は平和になったら戻ってきてくださいね」と言ってもらえた。


「さて、これは今回初だからどうなるかな?」

「小雪?」


俺は訳もわからず小雪の後をついていくとあのクリニックにつく。


大人になった小雪を見て奥さんが出てくると「あら、どうかしたかしら?」と聞いてくる。


小雪が「あの…お忙しい中すみません。お願いがありまして」と言うと奥さんは「後30分で休憩だから待てるかしら?」と言ってくれた。



小雪は「待ちます!とりあえずコンビニとか行ってます!」と言うと駅前で菓子折りを買ったりしてもう一度クリニックの扉を叩くと「すみません。御礼とか賄賂です」と言って菓子折りを渡した。


小雪のお願いはトイレに行くと言って離れたすきに手にいれていた婚姻届に証人欄があるから名前を書いてくれと言うものだった。


クリニックの2人は「私たちでいいのかい?」と驚くが小雪は「時間勝負なんです!」と迫る。


奥さんが「わかりました」と言って名前を書いてくれながら「これも夢で見たの?もしかして東京封鎖も知っていたのかしら?」と聞いてくる。


小雪は自身が3度目で1度目は何も知らずに悲しい結末にしてしまった事、2度目は秩父に来られたまでは良かったが最後には水月を失って俺との関係が壊れてしまった事、それを無くす為にも3度目こそ俺と夫婦になって水月を救うと言ってくれた。


「では君は東京で起きている事件について詳しいのかい?」

「はい。詳しいと言っても素人レベルの概要だけですけど…」


医師は証人欄に名前を書きながらそれでも良いから知りたいと言う。

小雪は東京湾に落ちた火球にウイルスが付いていて罹患した人間の体内でウイルスが一定値を超えると鬼みたいになると説明し、後日東京病と呼ばれる事を説明する。


「東京病…、それはここには来ないのかい?何か問題は?」

「ウイルスは地球上ではそのまま存在できないらしくて東京湾からだと東京都くらいまでしか生きられなくて、人の体内でなんとか生きるらしい事と生きてる時間は最初は一年とか言われてたけど半年だけで、体質で私と清明はなりませんでした」


それを聞いた医師は何かできる対策を考えてくれているようだが小雪は「それよりも子供病の患者って全国に結構居るんでそっちの対処の方がありがたいかもしれません。東京病は隔離施設とか用意できてない時に半年しか保たないとかわかってもなんともしようがないです」と説明をする。


子供病の方を考えた医師は「だがあれ以外に効く薬が…市販薬のほうでは?」と確認すると小雪は首を横に振って「なんか成分不足で治らないんです」と返した。

この説明に医師は「ありがとう。わかったよ。とりあえず子供病の話の方を政府に伝えて偶然処方した薬が効く事を伝えるよ」と言ってくれた。


小雪は「ありがとうございます。後は婚姻届もありがとうございます」とお礼を言うと帰りに役所に寄って「これで私は霜月 小雪!よろしくね清明!」と言って俺に抱きついた。

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