再びやり直す世界。

第14話 夢で見たって何?

もう小雪がウチに来て1週間が過ぎた。

小雪に治る気配はないし、毎日は楽しいし、このままでもいいかなと思うが困るのは幼稚園や小学校。後は歳の差だ。

どう見ても若い父親に見えてしまう。


このまま適齢期になった小雪に彼氏ができた時、俺は冷静で居られるだろうか…。

1人でいるとそんな事を悩むようになっていた。


今日は同僚にシフトを変わって欲しいと頼まれたので遅番になっている。

朝ごはんを食べたら仕事に行くまでに買い出しをしないとと思いながら朝食の用意をしているとリビングからは「来れた!」と聞こえてきた。



「寝ぼけたか?」

小雪の奴は寝相だけではなく寝惚けるのか?


俺は微笑ましい気持ちで「どうした小雪?」と言いながらリビングに顔を出すと「清明!来れたよ!」と言って小雪が抱き付いてくる。


寝ぼけた感じでもなく涙目で抱き着く小雪を見て困惑して「小雪?」としか言えない俺に「時間がないの!清明!」と言った小雪は「清明は私のこと好きだよね?」と聞いてくる。

突然の事で驚いていると真剣な小雪は「答えて!」と言うので俺は驚きながら「う…うん」と言った。


「まあ知ってたけど。愛してるよね?」

「うん」


「私が本気でお嫁さんにしてって言ったら真剣に考えてくれてしてくれるよね?」

「うん。どうしたの小雪?」


「順立てて説明するから今はまず出かけるの!清明はバイト休んで!」


突然すぎて意味不明だが断れる感じのしない勢いに俺は家族の不調だと言ってバイトを休み連れられるままに秩父までやってきた。


「秩父でなにがあるの?」


思ったまま聞くと「ふふん。大人に戻るんだよ」と不敵に笑う小雪。


なれるの?

ならなんで今まで子供だったの?


困惑する俺を放置して俺の手を引く小雪はそのまま駅前のお店で下着から寝間着から普段着まで買うと駅から30分程離れたクリニックのドアを叩く。


出てきた穏やかそうな女性の人に名前と子供の姿になった事を説明して中に通される小雪と俺、小雪は本当に治し方を知っているのか?


待合室で問診票を書く小雪に先程の女性、クリニックの奥さんが何で知っているのかを小雪に聞く。


小雪は「夢で見ました」と言っていてにわかには信じられないが奥さんはすぐに受け入れると旦那さんが診察をしてくれて薬を処方してくれた。


奥さんは俺に服の話をしようとして小雪が「今回は買ってきました!」と言うと笑いながら「彼女さんは本当に夢で全部見たのね」と笑う。


「本当ですね」と返す俺の言い方にピンときた奥さんは「あら?彼女さんではないの?」と聞いてくるので「はい。生涯の友達だと思って…」と返したところで小雪が「バカ清明!朝好きか聞いたし!私はもう清明の彼女だよ!」と診察室から声を張ってくる。


この声に「えぇ!?小雪!?」と驚く俺に奥さんは「あらあら、良いじゃない。ごく自然なカップルに見えた。無理してない。2人とも幸せそうよ」と言ってくれて照れて真っ赤になってしまう。


どうやら小雪はこのまま秩父に泊まるようで「夢での話ですけど、駅とここの間のビジネスホテルさんが子供病を知らないから私達を怪しんで宿泊ごねるんで電話して貰ってもいいてすか?」と言ってビジネスホテルに電話をすると医師が説明をしてくれる。

身元がハッキリしていると何事もやりやすい。


それにしても何だその具体的な夢は…。



俺はクリニックを出てすぐに小雪に夢の事を聞いたが小雪は「それは夜ご飯の後だよ清明。私、明日には大人に戻るからデートを楽しませてよ」と言って慣れた感じで俺の手を引く。


「秩父に来たことあるの?」

「清明と住んでたの。清明、あそこのラーメンの特製は清明イチオシだよー」


何を言われたかわからなかったが本当に美味しくて目を丸くした。


その後も小雪は俺を連れて秩父巡りをする。

驚きの連続で仲良くしてるとセレブ風の老夫婦から「あら仲の良い…お父さんと娘さん?」「お兄さんと妹さんかな?」と言われて小雪は「夫婦です!」と答えて「あら、素敵な旦那様ね。末長くお幸せに」と返されてニコニコしていた。


もう一度説明を求める俺に小雪は「んー…明日の朝から時間は沢山あるから説明は大人に戻ったらでいいよね?」と聞いてくる。俺は楽しい時間も嬉しいが生活を気にして「時間?沢山?俺バイト…」としか言えなかった。


「えぇ、イチャイチャしようよぉ」

「…5歳児が…」


とは言ったが小雪は俺の好みを的確についてきた。

自身のスマホをラジオにするとラジオからはノリのいいDJの声と今週の音楽ランキングが聞こえてくる。


別にラジオは垂れ流すだけ。

無音になるのがなんとなく今も嫌で何かしら音が欲しい。

それは遠い昔、親が出て行って婆ちゃんが世話をしてくれた時、夜寝る時になって寝床の無音がとてつもなく怖かったから。

あのまま親が帰ってこなかったら、捨てられたら、婆ちゃんが死んだらと考えて怖くなった。


あの晩があるからだと思う。


そして俺を壁際のベッドに座らせると小雪はスカートなのに俺の上に跨ってきて俺の名を呼びながら抱きしめてきた。


温かさと程よい声量に俺は「ん…、説明は明日でいいかな」と言いながらも胸の下あたりで抱きつく小雪を見て「イチャイチャってなぁ…、淫行だよこれじゃ」と言った。


夜は「夜中に大人に戻ったりして襟のある服だと窒息するからガウン系の服じゃないとダメなんだよ」と言った小雪が大人のガウンを羽織ると俺の腕の中にきて「おやすみ清明。起きたら大人の私だよ。起きたら彼女にしてね」と言う。


俺は精いっぱいの照れ隠しで「あれ?もう奥さんじゃないの?」と聞くと小雪は素直に受け取って「いいの?朝イチで婚姻届出してもいい!?」と聞き返してきた。


「何その熱量」

「本気なんだよー!」


俺は目の前の小雪が大人になって俺のお嫁さんになってくれる事が嬉しくて「大人に戻ったら言うけどさ。俺はこの日々が楽しかったよ。小雪が居なくなったらなんて考えたくなくてさ、でもこのまま歳の差が開いたまま大人になって、小雪が恋をしたらやだなって思ってたんだ」と言うと小雪は「清明…」と俺の名を呼んで見つめてくる。



俺は小雪を見つめ返しながら「小雪、俺のお嫁さんになってくれるかな?」と聞くと小雪は笑顔で「うん!嬉しいよ清明!」と言ってくれる。


「あ、でもやっぱり小雪が言う通り彼女かな?」

「もうそんなもの私達は超えてるよ!夫婦だよ夫婦!」


「そうかな?じゃあ後は明日の朝ね」

「うん!ありがとう清明!」


俺は慣れた感じで小雪を抱きかかえて眠る。

もうどこかで小雪が大人に戻る実感があったのだろうか疑う事なく信じていた。

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