第13話 今度こそ清明を助けたい。
性獣彼氏には悪いが、私こそそうなのかもしれない。
私は毎晩清明を求めて清明は過不足なく私を受け入れて私を求め返してくれる。
そんな幸せな時間。
配給は自炊すると言うと簡単な食品を貰えて、東京都からは生活費も振り込まれた。
毎日「帰れないね」と言いながらもこの生活を楽しんでいて、私は前回通りならそろそろ隔離施設に送られて、数日すると水月ちゃんとあの母親が隔離施設に来る。
今回は私達が居ないからあの母親は水月ちゃんといる事になって封鎖解除になった約半年後に親子で東京に戻ってくる。
挨拶なんかはそれからでもいい。
水月ちゃんとは仲良くなれる自信もある。
あの母親は悪いが挨拶だけで十分だろう。
やはり清明はあの一家から引き離す必要がある。
この秩父で仕事を見つけて清明と暮らしたらきっと幸せだ。
それからも夜は愛し合い、昼間はのんびりと飽きる事なく名前を呼び合って暮らす。
秩父散策もお手のもので風邪をひいた時はあのクリニックでお世話になった。
もう立派な秩父人になっていた。
最近では秩父のどこが良くて住むならどこでとやっている。
清明はその全部に付き合ってくれて、要望を聞くと「俺は小雪のためにご飯を作りたいからキッチンがしっかりしてくれてたら嬉しいよ。あ、出来たら2人で居られれば嬉しいから、のんびり出来るスペースが作れれば良いかな」と言ってくれる。
私の人生に足りなかったものが片っ端から私の中を満たしてくれる。
この会話だけで愛おしさが込み上げてくる私は清明の名を呼んで抱きしめてしまう。
楽しい時間というのはあっという間に過ぎる。
テレビニュースで東京病に目処が立ち、キャリアだけが隔離施設に残り、ノンキャリアは解放される話になる。
私達は役所の人に相談をしたら申し訳ないが順次帰宅にさせてほしいと言われ、念のために血液検査も行った。
まあ当然私と清明はキャリアにもならない体質だったので帰宅が許された。
東京封鎖の解除から10日後の話だった。
大人に戻ると清明の家は二人暮らしには狭かったが、それでも苦にならなかった。
落ち着いてから大家さんに挨拶に行くと、今回は大家さんも健在で子供病の話をしたら「それは妹さんの名前を出してしまいますね。幸せそうで何よりです」と言われた。
ここで清明が水月ちゃんの事を気にし始めた。
私は清明が会いに行くと言うのでその前に大家さんと大家さんの奥さんに頼んで婚姻届の証人欄を書いて貰って「事後報告だよ。これで私が清明を守るからね」と言うと前回を知らない清明は「そこまでウチの親は酷くないよ」と笑っていた。
なんの記念もない日だが私は霜月 小雪になった。
清明には「不束者ですがよろしくお願いします」と挨拶をしたら嬉しそうに「ありがとう小雪。俺こそ底の知れた男だけど一生懸命小雪を幸せにするよ」と言ってくれた。
結婚の報告を含め、水月ちゃんの安否確認で電話をした清明はスマホを落としてしまう。
「清明?どうしたの?清明?」
私が慌ててスマホを拾うとスマホからは「アンタのせいよ!全部アンタのせい!アンタのせいで水月が死んだのよ!」と聞こえてきた。
清明には落ち度なんて何もどこにもない。
たまたま東京封鎖を免れて秩父で封鎖解除まで暮らしていただけだった。
それなのにあの母親は全部清明が悪いと言って恨みつらみをぶつけていた。
水月ちゃんと母親が隔離施設に行ったところは前回通りだった。
そしてノンキャリアは帰宅が許されてキャリアは施設に残される。
その時、あろう事かこの母親は水月ちゃんを見捨てて帰宅をした。
そして残された水月ちゃんは親元に帰りたいと大雨の中脱走をした。あの隔離施設は陸の孤島で、近くに駅も何もない場所で何時間も帰り道を探した水月ちゃんは肺炎になり死んだ。
あの場所が何処か知らないが最後も看取れなかったとあの女は泣き叫んで清明を罵り続けていた。
この日から全てが真っ暗になった。
清明は自分の落ち度を探すように悩み続けて水月ちゃんを助けたかったと泣き続けた。
私との幸せな時間を過ごしていた間に水月ちゃんが困っていた事、悲しんでいた事、苦しんでいた事なんかに気付いて泣いている。
幸せな生活は一瞬で消え去った。
だが私は霜月 小雪になっていて清明を支えたい一心で尽くした。
尽くせば尽くすほどに清明は私に感謝をしたが同時に罪悪感で苦しんでしまう。
私はどうするべきか悩んだ。
その時、あり得ない事だがあり得た時の事を考えた。
まず、あの水月ちゃんと入れられた施設を調べた。
確かに東京都には川に分断されて近くに駅も何もない陸の孤島が点在していてその一つだった。
そして東京病の窓口に問い合わせるとある事が知れた。
そう。
私はもう一度やり直したい。
今度こそ清明を助けたい。
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